アリシア、みんなに称賛される
ひとしきり休んだルイスたちは、アリシアの古代魔法――空間転移を用いてリッド村へ帰還することとなった。
さすがに五十人を護衛して《霧の大森林》から抜けるのは無理がある。そう判断したためだ。
帝都に住んでいる者には申し訳ないが、現在のアリシアでは古代魔法を連発させることはできない。都民には後日、馬車で帰還してもらうことになった。
ちなみに。
空間転移術を使いこなせる者は、帝国でもそうそういない。ギルドでもひとり、Sランクの魔術師が使えるのみである。
そして使えるといっても、せいぜい自分ひとりだけを移動させるのに精一杯なはずだ。
大勢の人々を巻き込んで空間転移できるのは、たぶん帝国ではアリシアだけである。
だから一瞬にして視界がリッド村へと移り変わったときは、五十人もの人々はもちろん、アリシア自身もかなり感動していた。というか涙を流していた。
「こ、これが……噂に伝わる転移魔法……。わ、私が使えるようになるなんて……」
などと呟きながら一人でうっとりしているものだから、意識を戻すのに苦労した。
「す、すげえなあんた! 空間転移できんのかよ!」
「見たとこ冒険者かな? ランクはもちろんSですよね?」
目をキラキラさせて、人々がアリシアに詰め寄っていく。
だが当のアリシアは、いつまでも
「私が……空間魔法を……」
とあっちの世界に行ってしまっているから、もはや騒ぎに収集がつかなくなった。
そしてもう一人。
このことに盛大に驚愕する老人がいた。
「うおっ!?」
リッド村の広場へ転移した一同を、アルトリア・カーフェイが素っ頓狂な声とともに出迎えた。昼寝でもしていたのか、髪がややボサボサである。
「な、なんじゃ、刺客か!? 神聖共和国党の手の者か!!」
「ちげーよ。じいさん。よく見てくれ」
「ほっ……!? ルイス、アリシア……? それにリュウも……? な、なにがどうなっておる……?」
目を白黒させるアルトリアに、ルイスは思わず苦笑してしまう。まあ、事情を知らないとこうなるのも無理はない。
「さっきアリシアもやっとレベルが上がってな。《古代魔法》っていうスキルを使えるようになった」
「な……! こ、古代魔法……!? 本当か、アリシアよ!!」
「私が空間転移を……うふふふ」
「おまえは早く現実に戻ってこいよ!!」
思わずアリシアの額をぺしっと叩く。
彼女は
「あうっ」
と変な声を出し、目を瞬かせたあと、やっと現実に帰還したようだ。おぼろげな目でアルトリアを見やる。
「あ……お父さん……」
「アリシアよ。よく頑張ったの。その力は間違いなく、おぬしのものじゃ」
アリシアはこくりと頷いた。照れているのか、若干うつむきがちである。
「改めて聞こう。神聖共和国党との戦いに、協力してくれるかの?」
「あ……」
アリシアはちらりと見ると、はにかみながら元気に頷いた。
「はい……! まだまだ戦力的には不安定ですが、ぜひ一緒に戦いたいです……!」
「その意気やよし!」
そう言って娘の背中をバンバン叩く。
「ならば改めて二人に話があるが、今日はめでたい日じゃ。近隣の村人も集めて、盛大に、ぱーっと宴でも開こうぞ!」




