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おっさん、美少女といい感じになる

 ★


 終わった……

 ルイス・アルゼイドは《無条件勝利》を解除し、太刀を鞘におさめた。


 今回も厳しい戦いだった。

 やはり太古の魔獣ともなると、一般の敵とは格が違う。毎度のことながらとても疲れる。


 ――だが、その代わりに得たものも大きかった。


 ルイスはちらりと、地面にへたり込む相棒を見やった。


「はぁ……はぁ……」


 アリシアもやはり満身創痍まんしんそういだった。

 立つ余力も残っていないらしい。

 息も切れ切れに、交差させた両膝を地面にくっつける格好で休息を取っている。


 こちらの視線に気づいたのか、アリシアはふっと顔をあげると、疲れ半分、嬉しさ半分の笑顔を浮かべた。


「ルイスさん……私、やっと……! やっと……!!」


 その屈託のない笑顔に、ルイスも思わず笑みを浮かべてしまう。アリシアの眼前に座り込み、彼女の肩に手を置く。

「やったな。ついにレベルアップ……しかも、《古代魔法》なんてよ」


「ふふふ。ルイスさんのおかげです。こんな私が、初めて戦いの役に立てた……!」


「そうだな。おまえは本当によく頑張ったよ」


「ルイスさんのおかげです。ありがとうございます……!」


 感極まったのか、いまにも泣き出しそうである。これまで全然報われなかったぶん、反動も大きいのだろう。ルイスとて、彼女の気持ちはおおいによくわかる。


 だから自分のことのように嬉しかった。 

 ルイスはにいっと歯を剥き出すと、アリシアの頭を撫でてみせた。


「あ……」


「今日は宴だな。アルトリアさんもフレミアさんも、きっと喜ぶだろ」


「そうですね……。お父さんにもお母さんにも、いっぱい迷惑かけてきましたから。あ、あと」


「ん?」

 若干言いづらそうに口をもごもごさせた後、やや顔を赤らめて言った。

「私、心から思います。ルイスさんに会えてよかったって」


「……そりゃお互い様だな。俺もおまえに会えて人生が変わったよ」


「ふふ。ありがとうございます」


 さっきまでもやがかっていた《霧の大森林》に、いつしか陽射しが届くようになっていた。怪鳥けちょうの鳴き声も聞こえないし、霧もだいぶ晴れてきた。


 また、太古の魔女を倒したことにより、奴に囚われていた人間も解放されたようだ。いまルイスたちの近辺では、五十人近くの人間らが寝転がっている。当初の見立て通り、命に別状はなさそうだ。疲れが引くまで、いったんここで一休みしても問題ないだろう。


「…………」

「…………」


 ルイスもアリシアもなにも言わなかった。ただ心地よい静けさだけが、あたりに広がっていた。


 ぽん、と。

 アリシアが胸に頭を預けてくるのを、ルイスは無言で受け止めた。


 どれほどそうしていただろう。


「ん……あう……」


 うめき声が聞こえて、二人はぱっと身体を離した。

 小さな男の子――リュウの声だ。深い眠りから覚めたらしく、重そうに上半身をあげる。


 そんな彼に、アリシアがのっそりと近づいていく。


「大丈夫? リュウくん」


「――へ?」

 リュウは目をぱちくりさせた。

「なんでアリシア姉ちゃんがここに……? てか、ここどこ……?」


「霧の大森林。知ってるでしょ?」


「霧の……。あっ!」

 なにかを思い出したかのように目を見開く。

「そうだ! 僕、魔獣を退治するために外に出て……そしたら、変なローブをつけた人が二人いて、それで……!」


「で、あの怪物に取り込まれちゃったのね……」


 アリシアがちらっとルイスを見た。


 ルイスはゆっくりと、首を横に振る。


 魔女との戦いの最中で、神聖共和国党しんせいきょうわこくとうと思われる奴らはすでに撤退している。ルイスも連中の気配には気づいていたが、それどころではない激戦であったため、追いつめることまではできなかったわけだ。


 そしてリュウの証言通り、怪しい気配は二つあった。こいつらが事件の張本人だろう。


 アリシアはふうと息をつくと、再度リュウに向き直った。


「……リュウくん。たしかに、一番悪いのはその大人おとな二人だけど……でも、リュウくんにも悪いところはある。それはわかってるよね?」


「はい……」


 リュウが萎縮したように身を縮ませる。


「今回は助かったから良かったけど。……子どもだけで外に出たら、取り返しのつかないことになるの。下手したら、リュウくん、もうお家に帰れなかったかもしれないんだよ?」


 アリシアの言葉には不思議な重みがあった。まるで過去の自分に言い聞かせているような――そんな圧がある。


「だからお願い。もう勝手に外に出ないで。大事な命を……無駄にしないで」


「うん……ごめんなさい」


「帰ったら、おかあ……フレミアさんにもちゃんと謝るんだよ? あの人もすごく心配してたんだから」


「はい……」

 ――これは夢か幻か。


 ルイスは見た気がした。

 アリシアによく似た、小さな男の子が、アリシアとリュウを優しげな笑顔で見守っているのを。

 


 


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