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おっさんとアリシアのコンビネーション

 ブラッドネス・ドラゴンや、先程のギュスペンス・ドンナ、そして、ルイスに倒してもらった数々の魔獣たち。


 それらの経験値が急速に加算され、いままでは考えられないほどに成長のスピードが上がったのだろう。


 いまアリシアの視界には、長年に渡って待ち焦がれていたレベルアップの表示が浮かんでいた。


「…………」


 だが感慨に耽っている場合ではない。

 視界の端では、ギュスペンス・ドンナがトドメの一撃をルイスに刺そうとしている。あれだけは絶対に阻止せねばならない。


 急激に高まっていく自身の鼓動を意識しながら、アリシアは心中で叫んだ。


 ――スキル発動、《古代魔法》。


 突如、アリシアの輪郭を金の光彩が包み込んだ。それと同時に、身体全体がほんのりと白く染まっていく。自身の底から、かつてない魔力の胎動たいどうを感じる。


 古代魔法。

 聞いたことがあった。


 炎属性や水属性、土属性などの《通常属性》を圧倒的に上回る、現代では失われた魔法。


 現在でも必死に習得しようとする魔術師がいるようだが、あまりに強力すぎるゆえ、手がかりも掴めていない状況だという。


 そして。

 かの勇者エルガーとともに世界を救った《相棒の魔術師》もまた、この古代魔法を使いこなしたらしい。


「…………」


 アリシアは瞳を閉じ、体内の魔力を懸命に抽出した。懐から魔法杖を取り出し、先端をギュスペンス・ドンナへ向ける。


 まだ一度も使用したことのない古代魔法だが、スキルの効果のためか、どのように魔力を精製すればいいのか――身体がわかっていた。


 古代魔法を発動。

 ――光の千本刀せんぼんがたな


 ズゴゴゴゴゴォ!


 すさまじい轟音に次いで、無慮むりょ千もの巨大な剣がギュスペンス・ドンナの周囲に出現した。


 その一本一本が、はかなげな金色の輝きを発している。アリシア自身もぞくりとするような鋭利な切っ先が、冷たく魔女に向けられる。


「ギギギ……?」


「な、なんだ……?」


 ルイスとギュスペンス・ドンナが同時に驚きの声をあげる。


 そしていちはやく状況を察知したのは相棒のほうだった。


 ルイスは片膝をついた姿勢で、見開いた目をアリシアに向ける。


「アリシア……おまえ……!」


「ルイスさん、長らくお待たせしました! 背中は私にお預けください!」

 そう言ってから、

「……ハッ!」

 アリシアは短い発声とともに微力な魔力を放つ。


 突如、それら千本の刀が一斉いっせいにギュスペンス・ドンナに突き刺さっていく。金色の刀が残光を引きながら乱舞するさまは、どこか魅惑的な光景だった。


「ギュアアアアアア!」


 魔女の叫びが森林中に響きわたる。いくら太古の魔獣といえども、あれをまともに喰らえばただでは済むまい。


 ――だが。


「うっ……」


 アリシアは倦怠感を覚え、思わず眉間をおさえた。

 古代魔法は強大な威力を秘めているが、そのぶん、MPの消費が激しい。いわばルイスの《無条件勝利》と同じように、レベルアップによって素の魔力を高めていなければ連発はできないのだ。


 ――それなら。


 アリシアは残る魔力を総動員し、ルイスに《完全治癒エターナルヒール》をかける。


 いままでの、ちょっとした体力の回復じゃない。文字通り、ルイスの傷と疲労をすべて癒す――ヒールの完全上位互換だ。


「お……?」

 ルイスが驚きの声とともに、のっそりと立ち上がる。

「体力と傷の完全回復……はは、アリシアこれ、古代魔法じゃねえか? とんでもねえモン習得しやがったな」


「はい……! ですが私をもう限界です……。ルイスさん、後はお任せします!」


「おう。任せとけ」


 そうして親指を立てるルイスの背中は、いままで以上にたのもしかった。やっぱりかっこいいな――と、状況にそぐわずそんなことを考えてしまうアリシアだった。


「グオオオオオアアア!!」


 光の刀をすべて受けたギュスペンス・ドンナが、怒りの雄叫びを発する。さすがに看過できぬダメージが通ったらしく、もう全身ボロボロだ。激しく歪められた空洞の両目が、ぎろりとルイスを捉えた。


「……わかんねえかよ、魔女」

 だがルイスは、そんなギュスペンス・ドンナの眼光にすら動じない。

「てめえに勝ち目はねえ。とっとと……くたばるがいい」


 心眼しんげん一刀流、一の型、極・疾風。


 ルイスの神速の剣舞が、ギュスペンス・ドンナの胴体を綺麗に捉えた。正直、いまの疲れきったアリシアには、剣の軌道さえ見えなかった。


 そして。


「グゴアアアアア!!」


 太古に猛威を奮っていた巨大な魔女は、なすすべもなく、その身を切り刻まれた。


 

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