おっさん、冒険者に絡まれるも華麗にスルーする
リュウの居場所は結局、《無条件勝利》によって判明した。
ぞろぞろと魔獣の気配が漂っているなかで、ひとつだけ、異様に小さい気配が見つかったのである。
やはり、リッド村からそう遠くない場所だ。アリシアいわく、《霧の大森林》のある方角らしい。
となると、あまり悠長な行動はできない。
リュウはいま魔獣のうろついている場所にいるのだ。どんな状況なのかは不明だが、一瞬の遅れが命取りとなりかねない。
そういう理由もあって、ルイスとアリシアは駆け足で目的地へ向かった。道中、アリシアはずっと無言だった。さすがにこの現状でいつもの軽口を言う余裕はないらしい。はぁはぁと激しく息切れしているが、文句ひとつ言わず、ルイスの後ろをついてくる。
――どれほど走っただろうか。
視線の先に、背の高い木々の密集地帯が見えてきた。かなりの面積だ。うっすらと白い靄のようなものが漂っていて、たしかに《霧の大森林》という地名がぴったり当てはまる。
そんな不気味な森林を遠目で眺めているうち、ルイスは嫌でも不吉な予感を抱いてしまう。
――リュウは大丈夫か。魔獣に襲われてなけりゃいいが――
念のために、走りながら《無条件勝利》を発動する。やはり小さな気配はここで間違いない。奇跡的にまだ生き残っているようだが、急がねばなるまい……!
走った甲斐もあり、ほどなくして《霧の大森林》に着いた。
ルイスとアリシアは、互いに目を見合わせ、森林へ一歩を踏み出そうとしたの――だが。
「んお? おまえたちゃあ……」
――この声は……
聞き覚えのある声がして、ルイスはやや嫌な予感を抱きながらもそちらを振り向く。
赤いレザーコートに、腰にかけられている剣。
冒険者ギルドの人間だ。
「よぉよぉ。こりゃ珍しい。なんで《不動のE組》がこんなとこにいんだ?」
ニヤニヤ笑いを浮かべながら、男は楽しそうにこちらに近寄ってくる。
「…………」
ルイスは知らず知らずのうちに身構えてしまう。
正直、こいつのことは名前もランクも知らない。面と向かって話したこともない。
唯一覚えているのは、ルイスがギルドを追放されたとき、ゲラゲラ笑っていた男のうちひとりということ。
ルイスは悪い意味で有名人だから、こちらが知らずとも、向こうが一方的に《不動のE》の顔ぶれを知っているわけだ。
「おまえこそ……いったいなんでこんなところに」
本音を言えばすぐにでも森林に入りたかったが、ルイスはとりあえず冒険者に質問を投げかけることにした。
このタイミングで冒険者が現れたのだ。なにかしらの情報が得られるかもしれない。
男はにへらっと醜悪な笑みを浮かべると、胸を張って言った。
「そりゃ依頼のためよ。こちとら最近忙しいんだ。――解雇されたアンタと違ってな」
喧嘩腰の口調にすこしムッとしたが、怒りをこらえるのには慣れている。
ルイスは男の挑発をさらっとスルーし、会話を続けた。
「依頼か。こんな辺境でどんな依頼があったんだよ」
「んー。よくわかんねえけど、最近、帝都で子どもの失踪が続いてるみたいでな。で、ここいらに大量のガキどもの目撃情報があったわけ。俺はそれの確認役。――最近Cランクになった俺にふさわしい仕事だな、はっはっは」
「大量の……子ども……?」
その言葉に、またも嫌な予感がする。
さきほど《無条件勝利》を使用したとき、子どもの気配はひとつしか感じ取れなかった。
もしここに多くの子どもが誘拐されていると仮定すれば、他の子どもたちはどこにいったのか。そしてリュウも……
もしかすれば、その失踪事件とリュウの失踪も、なんらかの関係があるのかもしれない。
「ちょ、ちょっと待ってください」
アリシアが顔を青くして会話に入り込む。
「最近、帝都で失踪事件が続いてるって……? いったい、それがわかったのは何日くらい前なのよ」
「さあ。知らん」
あっけらかんと冒険者が言う。
「暇人なあんたらにゃ縁のねえ話だけどよ、俺たちはマジで忙しいの。わかる? ガキの失踪事件よりももっとやばい仕事が溜まってるの。そんな細けえこと気にしてられないんだよ」
「あんたは、それでも……!」
いきり立つアリシアを片手で制し、ルイスはあくまで冷静に言った。
「俺たちにゃ時間がないんでね。こちらから聞いといてすまないが、これ以上の立ち話はやめとしよう」
「は? 時間がない? まさかあんたらもこの事件を追ってるのかよ」
「……だったらなんだ」
「ひゃっはっはっは! うける! この近辺には、ランクDでも苦戦する魔獣がわんさかいるんだぞ!」
ルイスは「はあ」とため息をつくと、くるりと振り向いた。そのまま歩き出しながら、ひらひらと手を振ってみせる。
「ランクでも苦戦する魔獣ね。道理でおまえボロボロなわけだ」
「む……?」
男が掠れ声を発する。
「そういや、おまえら傷ひとつ負ってねえな。おい、どんな手を使ったんだ」
「さあな。Cランクに上がったんだろ? それくらい自分で考えろ。――いくぞアリシア」
「は、はい……!」
慌ててルイスの背中をついてくるアリシアだった。




