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おっさん、過去の自分と照らし合わせる

「リュウが、いない――!?」


 翌日の朝。

 欠伸あくびをしながら居間に入ったルイスは、いきなり衝撃的な事実を告げられた。


 リュウといえば、リッド村に初めて訪れたとき、ルイスを少々馬鹿にした少年だ。アルトリアとの手合わせを見て以降は、なぜだかルイスを師匠として尊敬している。


 そんな陽気な少年リュウが、朝からどこにもいないのだと――フレミアは真っ青な顔で言った。いつもは他の子どもたちと一緒の部屋で寝ているのに、いまは彼の姿がまったくないらしい。


「うむむ……やはり見当たらないの」

「こっちも駄目。いつも隠れんぼしてる所にはいなかった」


 アルトリアとアリシアも居間に入ってきた。


 先に事情を聞かされていたのか、二人とも家のなかを捜索していたようだ。


 ルイスはこほんと咳払いすると、改めてフレミアを見やった。


「フレミアさん。なにか手がかりはないんですか」


「手がかりですか……あるといえばありますが……」

 少々困ったように目を伏せる。

「最近、魔獣がやたら増えているでしょう? だからリュウくんも闘争心が刺激されたみたいで……自分もアリシアの手伝いをしたいと、昨日しきりに言っていました」


「は!? 魔獣退治しにいったんですか!?」


「わかりません……。そのときは私が説得して、素直に頷いていたんですが……男の子ですから、もしかしたら……」


「…………」


 呆れてしまうが、さりとてルイスも気持ちがわからないでもない。


 ルイスも小さい頃はそうだった。

 伝説の勇者に憧れて太刀を勉強したし、人々を救いたくてギルドに入った。だからリュウの気持ちはわからなくもないが――あまりに、無謀に過ぎる。


「ううむ。ありえるのう……。あの年頃じゃし、しかもリュウは血気盛んじゃからのぅ……」


 アルトリアも同様のことを考えていたのか、ルイスとまったく同意見のことを呟いた。


「で、でも、そしたらさ……!」

 アリシアが困ったように両手を広げる。

「む、村の外を一通り探さないといけないってこと……? かなり広いよ……?」


「そうだな。まあ、あの歳じゃそう遠くには行けねえだろ」


 ルイスはそう言うと、フレミアに視線を戻した。


「フレミアさんは村のなかを探してもらえませんか? ここの村人さんなら、喜んで協力してくれると思いますし」


「え、ええ……。そうします……!」


 しっかりと頷くフレミア。


 ひたと、ルイスは眼下のテーブルを見下ろした。

 見覚えのある封筒が三通、机上きじょうに置かれている。


 これが今日の依頼だと思われるが、やはり数が多い。ギルドが破綻はたんしていくなかで、やはり困っている人々が増えているのだろう。


 どちらも放ってはおけない。

 リュウは時間が経てば経つほど危険な目に遭う可能性がある。

 

 そんなルイスの心境を察したのか、アルトリアはさっとルイスの肩に手を置いた。


「気にするな。依頼と神聖共和国党(しんせいきょうわこくとう)はすべてワシが受け持つ。おぬしはアリシアとともにリュウを探してくれないかの」


「だ……大丈夫なのかよ? 昨日の今日だぞ?」


「ほっほ。ワシを誰だと思っておる。これくらい屁でもないわ」


 いつも通りにかっと笑うと、アルトリアは表情を引き締め、アリシアを向いた。


「おぬしは、いま自分にできることをやってほしい。実力のなさを恥じることはない。ルイスとともに、リュウの捜索を頼めるか?」


「は……はい」


「それでよし」

 アルトリアは再びにかっと笑うと、一同に向けて声高に言った。

「では、一時解散じゃ。みな、無事に帰ってくるのじゃぞ」


「はい……!」

「了解です……!」






 早朝の迷子は非常に厄介だった。


 なにしろ、目撃者がいない。

 村を出る前に簡単な聞き込みをしてみたが、有力な情報はなんら得られなかった。ルイスたちは文字通り、広大な村の外を一通り探さねばならない。


「ふう。こりゃ厄介だなぁ」


 リッド村の出入口で、ルイスはふうと息をついた。

 小さな子どもだから、そう遠くに行ったとは思えない。だがそれを差し引いても、捜索の範囲があまりに広すぎる。がむしゃらに探したところですぐに見つかるわけがない。そんな偶然に頼るようではどうしようもない。


 なにか手はないものかと考えたところで、ルイスの脳裏にあるひらめきがよぎった。


「アリシア。《無条件勝利》を使う。あれを使えば気配くらい探れるだろ」


「無条件勝利ですか……。なるほど」


 アリシアがこくりと頷いた。


 何度か検証して気づいたが、このスキルは本来の効果――無条件に勝利する効果――とは別に、ステータスが著しく向上する効果があるようだ。


 現に、ブラッドネス・ドラゴンもゾンネーガ・アッフも、ルイスは一撃で倒してみせた。


 だからこのスキルを用いれば、達人級の感知力でもってリュウの気配を探れるかもしれない。


 そう思ってスキルを発動しようとしたのだが――


「あ、ちょっと待ってください」

 アリシアがルイスの裾を掴んだ。

「それなら私にやらせてください。《無条件勝利》は消耗が激しいんでしょう? いざというとき、ルイスさんは動けるようにしていてほしいんです」


「なに……?」


 ルイスは思わず相棒を見返した。


 たしかにアリシアの言うことは最もだ。神聖共和国党しんせいきょうわこくとうの脅威もあるし、いつ魔獣に襲われるかもわからない。念のためを考えて、できるけ体力は温存しておきたいところだ。


 だが――


「できるのか? 馬鹿にしてるわけじゃないんだが……」


「たぶん、できるはずです。索敵魔法を使えばなんとか……」


 索敵魔法。

 その名前を聞いてはっとする。


 文字通り、周囲の気配を索敵する魔法だ。


 上達すればするほど、より広範囲の気配を探ることもできるし、また小さな気配も感じ取ることができる。


 戦闘では直接役に立たないが、習得できれば便利な魔法である。冒険者ギルドでも、この魔法を得意とする魔術師は多くいた。


 でも、とルイスは思う。

 ギルドに在籍していた頃――つまり三日前まで――は、アリシアはそんな魔法使えなかったはずだ。


 加えて。

 リュウの気配はかなり小さいし、索敵範囲はあまりに広い。


 気配を捉えるのはかなり困難だろうが、大丈夫だろうか……?


 一抹の不安は残ったが、とりあえずルイスは様子を見守ることに決めた。


 アリシアは懐から魔法杖を取り出すと、両手で構える。

 直後、シュウイインン――という軽やかな音が発生し、アリシアの真下に魔法陣が浮かびあがった。


 索敵魔法の発動である。

 彼女はいま、自身のマジックポイントを消費しながらリュウの気配を辿っている。アリシアの額にとめどなく汗が流れていく。


「ん……!」


 数秒後、アリシアが苦悶の声をあげた。

 限界が訪れ始めたようだ。


 果たしてアリシアは、荒い呼吸とともに、片膝を地面についた。


 ――やはり駄目か。


「はぁっ、はぁっ……! すみません、ルイスさん……」

 苦しそうな表情でルイスを見上げる。

「私、自分が情けないです。魔術師なのに、気配を探ることもできないなんて……!」


「大丈夫だ、気にするな」

 ルイスはアリシアの目前でしゃがみ込み、優しい声音になるよう意識して言った。

「三日前のおまえだったら、ゾンネーガ・アッフの気配を探ることもできなかっただろ。どんなに遅くても、確実に成長はしてるんだ。おまえがこっそり修行した成果だろう? 違うかよ」


「……いえ」


「おまえの頑張りを俺は知ってる。だかららしくもねえ心配すんな。一緒に頑張ろうぜ」


「ルイスさん……」

 アリシアがぎゅっと瞳を閉じた。

「そうですよね。仮にも私は元冒険者なんです。こんなことで……へこたれるわけにはいきませんよね」


「ああ。その意気だ。おまえの努力は、いつか絶対報われる」


「はい……。ありがとう、ございます……」


 アリシアは笑顔を浮かべると、ルイスの差し出した手を受け取り、二人で立ち上がった。



 


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