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冒険者ギルド、女に怒鳴られる

 ――帝都。冒険者ギルドにて――


「ちょっと、どういうことなのよ! これは!」


 女のうるさい声が部屋中に響きわたる。


「私は《ルビー》が欲しいって頼んだでしょ! なのにこれは何!? ただ鉱山に転がっている石ころを拾ってきただけじゃないの!?」


「も、もも申し訳ありませんっ!」


 ギルドマスター――ライアン・フォルティーアは深々と頭を下げた。


 現在、ギルドのカウンターには口の開いた布袋が置かれている。中身は見るも汚らしい石の寄せ集めだ。


《ルビー採掘》の依頼をしたにも関わらず、女は冒険者からこれを受け取ったらしい。怒り心頭なのはそのためだ。ブチ切れるのも無理はない。


 ちなみに、女が《ルビー採掘》の依頼人であったのは事実である。彼女は常連だったから、名前と顔はよく覚えているのだ。


 ライアンは自分のプライドを殺し、ただひたすらに、謝罪することに徹した。


「申し訳ありません。なにぶん依頼を受けたのは新人冒険者でして……今後このようなことがないよう、しっかりと教育を……」


「ふんっ! そもそも新人なんかを寄越すのが間違ってるのよ! あんたら最近、かなり評判悪いわよ!?」


「も……申し訳ありません……」


 それはもちろん知っている。


 雑務のベテランだったルイス・アルゼイドが退職したのと、魔獣の高頻度な出没。これが最悪なタイミングで重なって、ギルドはいま史上最高とも言えるほどの人手不足に陥っていた。


 言うまでもなく、魔獣退治には危険が伴う。


 だからランクの高い冒険者には魔獣退治をお願いして、経験の浅い冒険者に簡単な依頼を任せる。そのようにしてなんとか凌いできたが、早くも綻びが発生しつつあるらしい。


「そうだ、あの人はどこにいるのよ!?」

 女がずいっとカウンターに身を乗り出してくる。

「えーっと、あのおじさん……そうだわ! ルイスって人! あの人、頼りないけど依頼はきちんとやってくれてたわ! あの人を出しなさい!」


「えーっと、そのう……」

 思わず口ごもってしまうライアン。

「なによ!? 私の言うことが聞けないの!?」


「誠に申し上げにくいのですが……ルイスは退職してまして……」


「はっ!? なんでよ!」


 女がぎょっと目を見開く。


「ギルドの規定により、四十歳でEランクの者は退職することになっているのです……。いわば戦力外通告というやつで――」


「なにが戦力外通告よ! バカッ!」


 女が大声で叫びだした。


「あんたらのほうがよっぽど使えないわ! なによ!? ギルドの評判が落ちたのって、ルイスが辞めたせいなわけ!?」


「うぐっ……そ、それはまあ、一理あるといえばあるかもしれませんが……」


「もういいわ! アンタらはもう二度と頼らない! 依頼金だけ返してちょうだい! もう帰りたいわ!」


「か、かしこまりました……」

 

  ★


 ――二十分後。


「災難だったなぁ、マスター」


 Bランク冒険者――バハートが、カウンターでうなだれるライアンの肩を叩いた。


「はぁ……俺もう、この仕事辞めたいよ」


「おいおい。アンタがいなくなったら、それこそ大混乱になっちまうじゃねえかよ」


「だよな……」


 ライアンはふうと息を吐き、椅子の背もたれに身を預けた。


 長年続いてきた冒険者ギルドの安定。

 それがいまや崩れつつある。

 なんとか再建を試みたが、なにしろ人手が足りない。

 新人冒険者は仕事ができない。

 そして依頼は溜まっていく一方。もはや手詰まりである。どうしようもない。


 ――はぁ……

 再び思考が後ろ向きになったとき、バハートが苦笑とともに言った。


「なあライアンのおっさん、前に言った件――どうなったよ?」


「前の件……? ああ、あれか」

 こほんと咳払いをすると、ライアンは表情を引き締めた。

「駄目だな。あの灰色ローブはやっぱりユーラス共和国の連中らしい。こっちから手を出すなって上から言われちまったよ」


「マジかよ……くそったれめ……」


 ちっと舌打ちをかますバハート。


 ライアンも彼とまったく同じ心境だった。やりきれない気持ちとはこのことだ。


 ライアンとて、この《魔獣の大量発生》に手をこまねいていたわけではない。


 依頼をこなしつつ、異常事態の原因をつきとめてほしい――Bランク以上の者にはそう通告してある。このままひたすら魔獣退治を繰り返していては埒が明かないためだ。


 そしてとうとう、それらしき原因を突き止めた。魔獣が大量発生している場所に、必ずといっていいほど、不審者が複数人いるというのだ。しかもそいつらはみな、灰色のローブをまとっているという。これはなんらかの関係があると見ていいだろう、という報告が上がったのだ。


 ――が、それはライアンたちにとって、なんら嬉しいニュースではなかった。


 なぜならば、その灰色ローブは、隣国――ユーラス共和国の人間であるためだ。


 他国の仕業である以上、ギルドは手が出せない。そう国から命じられているからだ。


 つまりライアンたちは、異常事態の原因がわかっていながら、なんの対処もできず、ただひたすらに魔獣退治をするしかないのである。


 こんな空しいことがあるだろうか。いったい、いつになったらこの地獄から解放されるというのか。


 やってられない。マジで。

 ルイスが戻ってくれば、すこしは楽になるのか――そう思ってしまう瞬間だった。



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