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おっさん、弱い自分を思い出す

「単刀直入に言おう」


 ルイスはテーブルを挟んだ向かい側に座ると、アリシアの眼光をしかと受け止めた。


「俺はアルトリアさんの提案を受けることにしたよ。この危機的な状況を、放っておくわけにいかないしな」


「そうですか……」


 ほんの一瞬だけ、アリシアは切なそうに両眉を落とした。だが一秒後には、にこやかな笑みを浮かべてみせる。


「そうですよ。ルイスさんは強いですし、昔からの夢でしたしね。いやあ素敵です! 二人で、帝国を救ってあげてくださいね!」


 ――ああ。

 この顔。

 なんとなく既視感があった。


 いままで近しいと思っていた者が躍進し、おめでたいと思う反面、ちょっと複雑な思いを抱く瞬間……


 ルイス自身、何度もこのようなことがあった。だからわかってしまったのだ。彼女の気持ちが。


 アリシアだってきっと強くなりたいだろう。そして多くの人々を救い、理想の自分に近づいていきたいはずだ。


 なのに彼女はそれができない。

 なぜかレベルがまったく上がらないから。どんなに努力を重ねても、まったく結果が現れないから。


 リーンリーンと。

 虫の鳴き声だけが高く響き渡る。

 雨も降っているようだ。

 雫が地面に落ちる音が断続的に聞こえてくる。

 窓の外からは、すこし湿った土の匂いが届いてくる。


 ――ふう。

 ルイスは大きく深呼吸し、気持ちを整えると、

「だがな」

 と言った。


「俺はアリシアのおかげでここまで来られた。その恩は忘れてねえよ。いや……忘れられねえな」


「どういう……ことですか?」


「アリシア。おまえも一緒に行こうぜ。三人で神聖共和国党しんせいきょうわこくとうをぶっ飛ばすんだ」


「……っ!」

 アリシアの表情が見るからに歪んだ。視線をそっぽに向けると、半笑いを浮かべる。

「とても嬉しいご提案ですけど……無理です。私の実力では、全然……」


「だから一緒に強くなろうって言ってんだ。二人でどんどん依頼をこなして、そんでアリシアのレベルも上げるんだ」


「な、なにを言ってるんですか!?」

 アリシアは目を見開いた。

「私のことは気にしないでください! ルイスさんは自分の夢を叶えてくださいよ! 変に時間をかけたら、なにが起きるか……」


「そのへんは大丈夫だ。アルトリアさんが明日から活動するからな」


「……で、でも……」


 戸惑ったように下を向く。


「だから一緒に強くなろう。強くなって、みんなで帝国を救うんだ」


「…………」

「アリシア」

 ルイスは元相棒の瞳をしっかりと見つめ、力強い声を発した。

「俺な、アルトリアさんに言われたんだよ。ワシらは家族だって」


「…………」


 雨の足音がさらに強まる。


「俺こそ、お世辞にも良い人生を送ってきたわけじゃねえ。暗い半生だったぜ? そんな俺を、アルトリアさんは受け入れてくれたんだ。《不動のE》の悪評なんぞ、めちゃくちゃ知ってるはずなのにな。でもアルトリアさんは迷惑がってる様子がまったくなかった」


 ルイスにとっては珍しく長い自分語りだった。

 この家族と関わることで、俺もすこしは変わったのかもしれないな――そんなことを考えながら、ルイスは再び口を開いた。


「――なによりも、俺はまたおまえと戦いたいんだよ。アリシア」


「…………!」


「俺たちは家族なんだろ? だったら下らねえ気を回すな。どんな悩みも苦しみも、一緒に解決していけばいい」


 我ながら臭いセリフだと思った。

 昔のルイスだったら絶対に言えなかったことだ。ほぼ間違いなく、あの老人の影響だろうと思われた。


「……あれ」


 アリシアの瞳から雫が垂れていく。

 彼女は必死に両目から涙をこすっていく。


「これは……予想外でした。ルイスさんからそんなこと言われるなんて……」


「……まあ、自分でもけっこう驚いてるくらいよ」


「ルイスさん。ちょっとよろしいですか」


「ん?」


 アリシアはすたっと立ち上がると、ルイスの隣に座り。


 ルイスの頬に、そっと唇をあてがってきた。


「……お、おいおいおい」

 年甲斐にもなく動揺するおっさん。

「な、なにしてやがる。こういうことはな、好きな男にだけ――」


「もう。肝心なところは変わってないんですから」


 アリシアは苦笑すると、ルイスの胸に身を預けた。


「ありがとうございます……。こんな私でいいのなら、是非おともさせてください。強くなれるかはわかりませんが……」


 この状況で「ぜひおともさせてください」というのは別の意味に聞こえなくもなかったが、ルイスは優しくアリシアの身を受け止めた。


「ああ。一緒に強くなろう」


 ★


 ――良かった。どうやら大丈夫そうだ。

 アルトリア・カーフェイは、扉の隙間を覗きながら、ほっと一息ついた。


 部屋のなかでは、ルイスとアリシアが良い感じに抱き合っている。このままいけば、二人がさらに深い関係になることは明確だろう。


 ――よかった。本当に……

 アルトリアは安堵に胸を撫で下ろしながら、扉からそっと離れた。


「……一部始終、見て行かれないんですか?」


 隣で、フレミア・カーフェイが小声で聞いてきた。


「いいんじゃよ。ここまで見られれば充分じゃ」


「…………」


 フレミアは優しくアルトリアの片手を握った。


「気になされてるのですね。アリシアに……不用意な発言をしてしまったこと」


「……ふむ。どうだかの」


「あなたはだいぶ変わったと思います。《恐剣》と恐れられていたときよりずっと。アリシアもきっと、それはわかっていますよ」


「フレミア……」


 アルトリアもフレミアの手を握り返す。


「だといいがの。――さて、ワシらも続きを部屋でやろうではないか?」


「いえ、私はもう眠たくて仕方ありませんので(ニッコリ)」


「がくっ……」


 

 

 


 

 

 

 

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