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おっさん、Sランクより強いと言われる

「なんて奴じゃい……まさか自爆するとは……」 


 そう呟くアルトリアの額には冷や汗が流れていた。いつも気さくな老人も、さすがに肝を抜かれたらしい。


 だが、とルイスは思った。

 これでわかった点がいくつかある。


「やはり……ユーラス共和国はなにかしら企んでいるようだな。自爆してまで情報を秘匿するとは」


「うむ。そうじゃの」

 アルトリアはふうと息を吐くと、呆れたように焼け焦げた草木を見やった。

「先日、帝都でも古代竜が襲ってきたんじゃろ? いったいなにをもくろんでおるのか……」


「さあな……」


 こればかりはルイスにもわからない。


 さっき男は言っていた。


 ――どうやらなにもわかっていないようだな。もうその段階は過ぎたのだよ――


 その段階……。これもまた意味深な言葉だが、現段階ではやはり、なにもわからない。情報が少なすぎるのだ。


「なあ、アルトリアのじいさん」

 だからルイスはまず、隣で立ち尽くしている元冒険者に聞いてみることにした。

「奴らと、前に会ったことがあるんんだろ? いったい何者なんだよ?」


「――そりゃあ俺が答えてやろう」


 ふいに新たな声が聞こえ、ルイスは眉をひくつかせた。アルトリアと同時に声のした方向を見やり――そして二人で驚愕した。


「なに……!?」

「お、おぬしは……!?」


 ぼさぼさのショートヘアが、燦然さんぜんと紅に輝いている。中肉中背ちゅうにくちゅうぜい、外見的にはどこにでもいる普通の男性だが、彼からは何ともいえぬ威圧感が放たれていた。くりくりっと大きな瞳が少年のようなあどけなさをまとっているが、彼はただの青年ではない。


「レスト・ネスレイア……」


 アルトリアがぼそりと言うと、レストと呼ばれた青年はにっこりと笑った。


「ようアルトリアのじっちゃん。元気でやってっかよ」


「馬鹿いえ。ワシゃあもうヘトヘトじゃ」


「はっは。さすがのアンタももう七十だもんなぁ」


 レストは再びにかっと笑うと、あどけない瞳を今度はルイスに向けた。


「そんでアンタが……《不動のE》、えっと、ルイス・アルゼイドさんだっけな?」


 懐かしい二つ名に、思わず苦笑してしまう。


「そうだ。よく俺のことなんざわかったな」


「くく、そりゃあね。アンタは有名人だったからな」


「はっ。光栄だよ。レスト・ネスレイア――Sランク冒険者殿」


「はっは。ま、ランクなんてどうでもいいじゃねえか。俺ゃあただバトルを楽しめればそれでいい」


 そして再び、綺麗に整った白い歯をにかっと見せる。


 ――レスト・ネスレイア。


 帝国に三人しかいないSランク冒険者のうち一人。

 年齢的にはかなり若いが、実力は帝国でも最強クラスだ。


 剣も魔法もバランスよく使いこなすほか、野性的な勘で恐ろしいほど的確に立ち回る。まさに天才児というやつだ。命がけの戦いでさえ、《バトル》といって楽しむような奴である。


「おっと、話を元に戻すぞ」

 レストは後頭部で両手を組むと、あくまでも軽い口調で言った。

「あいつらは、神聖共和国党しんせいきょうわこくとう……ユーラス共和国でも過激的な組織だな。自国を情熱的に愛する一方で、他国にはかなりの敵対心を持っている」


 レストの言葉に、アルトリアが深く頷いた。


「うむ。特に我がサクセンドリアとは仲が悪いからの。以前からなにかしらの破壊活動を行っておった」


「そうか……あいつらが……」


 ルイスも難しい顔で頷いた。

 実際に連中と会ったのは初めてだが、名前だけは書物などで知っていた。理想を叶えるためならば、自分の命を捨てることさえいとわない――たしかに聞いた通りである。


「あんたらがそれを知ってるってことは……ギルドの上層部も少なからず情報を掴んでるはずだな?」


「ああ。もちろんさ。けど――」


「ギルドの規定により他国の干渉には踏み込めない……ってことか」


「正解! そういうこった」

 レストはパチンと指を鳴らした。

「ここだけじゃねえ。古代種のバケモンがあちこちに出現してやがる。んでもって、その近辺には必ず不審な連中が何人かいるんだよな。もちろん手は出せねェが」


「……そこまでされて、なぜ陛下はお動きにならない?」

 ルイスは眉をひそめて言った。

「いくら戦争回避のためとはいえ、このまま帝国の住民が迫害されていい道理はないはずだ。このままでは多くの被害が――」


「…………」

 レストは数秒だけ黙り込むと、ふうと息を吐き、肩を竦めた。

「さあな。それに関しちゃ俺もよく考えてるが、正直わかんねえ」


「そうか……」


 まあ、このへんはいつか帝都に寄ったとき、プリミラ皇女にでも聞いておこう。さすがにのっぴきならない状況になってきた。


「……にしてもよ」

 レストはゾンネーガ・アッフの死体をちら見して言った。なぜだか、少しばかり残念そうな表情をしている。

「このバケモン倒したのは誰だ? せっかく楽しいバトルできると思ったのによ……まさかアルトリアのじっちゃん一人じゃねえよな」


「ふふ、誰だと思うかの?」

 アルトリアはにやりと笑うと、ルイスの背中をバンバン叩いた。

「こやつ――ルイス・アルゼイドのおかげじゃ。ギルドにいたときよりも格段に強くなっての。ワシの見立てでは、Sランクの冒険者……おぬしより強かろうて」


「な……マ、マジかよ!?」


 と驚きながらも、なぜか目が嬉しそうにキラキラしている。


「おっしゃルイスさん! いっちょ俺とバトルしようぜ!」


「いや……遠慮しとくよ。疲れたし」


「えーケチ!」


「はいはい。また今度な」


 まさに少年のような冒険者である。馬鹿馬鹿しい奴だが、アリシアと同様、どこか憎めないところがあった。


 レストはなおもブーブー言っていたが、ルイスが引かないことに諦めると、「はあーあ」とため息をついて言った。


「アルトリアのじっちゃんよ。これからどうすんだよ? まさか本気で、共和国の企みを阻止するつもりか?」


「ああ。ワシはそのつもりじゃ。ルイスまではどうか知らんがの」


 そう言ってルイスをちらちら見るアルトリア。


 レストは「そっか」と頷くと、会ったときと同様、あどけない笑顔を浮かべてきた。


「なら、互いに頑張ろうぜ。俺ゃあ連中には手出しできねェけど、それでも協力できることはあるはずだ」


「ああ……そうじゃの。なにかあったらよろしく頼む」



 


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