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おっさん、伝説に近づく

 アルトリア・カーフェイ。

 元Aランクの冒険者にして、かつて《恐剣のアルトリア》とまで恐れられた使い手。


 その剛胆なる戦いっぷりを、ルイスは初めて間近で見た。


「こおおおおおお……」

 アルトリアは小さく唸り声を発すると、

「ふんっ!」

 気合いの一声とともに、全身に力を込めた。


 ドクン! という重低音と同時に、アルトリアの周囲に無色のオーラが発生する。心なしか、老人の身体つきがたくましくなったように感じられた。


「なるほど。攻撃力アップのスキル……、それも《特大》か」


「しかり。いかなる強敵も、ワシの攻撃力でねじ伏せてきた。あいつに通じるかはわからんがの……」


 アルトリアは一瞬だけルイスに目を向けると、ひょいと剣を斜めに振ってみせた。


「ワシがあいつの注意を引き付ける。おぬしはその《無条件勝利》とやらで、最高の一撃を見舞ってやれ」


「……了解した。気をつけてくれよ」


「ふっ。誰に言っておる」


 アルトリアは勝ち気な笑みを浮かべると。

 片足で地を蹴り、猛烈な速度でゾンネーガ・アッフへ疾駆した。さすがは元Aランクなだけあって、アルトリアの元いた位置で土埃が舞う。それだけのスピードだったのだろう。


 だが、相対するゾンネーガ・アッフも、太古に猛威を振るっていた古代種だ。アルトリアの超速度にもまったく怯まず、雄叫びをあげて右腕を振り下ろす。おぞましいほど筋骨隆々な腕だ。どんな強者であっても、一撃もらうだけで看過できぬダメージが通るだろう。


 だが、アルトリアはその動きを先読みしていたようだ。


「……ふっ!」


 短い発声とともにサイドステップを繰り出す。紙一重でゾンネーガ・アッフの拳を避ける。


 ズドォン!

 巨大な轟音とともに、ゾンネーガ・アッフの拳が地面に打ち付けられた。


「…………!?」


 そのとんでもない威力には、さしものルイスも驚愕せずにはいられない。地面には、ゾンネーガ・アッフの拳そのままの穴が、かなり深く刻まれていたのだ。


 いくらアルトリアとて、あんなのをまともに喰らえば――命の保証はない。


 当のアルトリアも数秒だけそちらに気を取られていたようだが、すぐに意識を引き戻したのはさすがである。そのまま高く跳躍し、ゾンネーガ・アッフの顔面めがけて剣を振ろうとした。対するゾンネーガ・アッフは、攻撃を避けられてすぐには動けない。


 もらった!

 アルトリアが勝利を確信したように目を見開いた――その瞬間。


 ゾンネーガ・アッフの真下で、巨大な魔法陣が浮かび上がった。


 ――あれは……!!

 ルイスは一歩前に進み出ると、喉が張り裂けんばかりの大声を発した。


「アルトリア! 攻撃は諦めろ! 死ぬぞ!」


「ぬ……!?」


 正直、相手がアルトリアでなかったら危なかったかもしれない。


 老年の剣士はさすがの反応速度で振ろうとしていた剣を引っ込めると――下級魔法の《エアー》を発動した。アルトリアの手からわずかな風が発せられ、反動によって逆方向に突き飛ばされる。


 瞬間。

 さっきまで彼のいた位置を、巨大な火炎球が通りすぎていった。すさまじい熱気だ。戦いを遠目で眺めていたルイスにも、もうもうとした熱風が届いてくる。


「ひょー、危なかったのう……!」


 アルトリアは間一髪のところで回避に成功したようだ。すとんと地面に着地すると、片腕で額の汗を拭った。


「あれほど強力な魔法を一瞬にして発動させるとは。……ルイスよ。おぬしの助言がなければ、今頃ワシはしかばねも残っていなかったじゃろうて」


「やめてくれ、縁起でもない……」

 ルイスは首を横に振った。

「……ゾンネーガ・アッフの魔法は相当に強い。手こずるぞ……あいつは」


「たしかにな。じゃが、なんとか活路を見いだしてみよう」


 言うと、アルトリアは再び太古の大猿に目を戻した。


「グルルルルル……!」


 やはり古代の魔獣となると、それなりの知性を持っていると思われる。ゾンネーガ・アッフはこちらから一定の距離を保ったまま、ルイスとアルトリアの出方を伺っていた。


「……はっ、ずいぶん警戒されてるみたいじゃねえか」


 ルイスは思わず苦笑いを浮かべる。

 まあ、《無条件勝利》で子分どもを一瞬で蹴散らしたのだから無理もないが。


「ルイスよ。……おぬし、体力は平気か」


「…………」

 やはり気づかれていたか、とルイスは思った。

「すまない。さっき、大勢の魔獣を倒してから――結構、ガタがきてる」


「そうか。まあ致し方あるまい。ここぞというときまで、おぬしはここで待機しておれ」


「だ、だが、大丈夫なのか? 相手は古代種だ。やっぱり協力を――」


「――ルイスよ。言ったろう。ワシらは家族じゃ」

 そう言いながら、ゆっくりと、自身よりも何十倍も大きな魔獣へと歩み寄っていく。

全部ぜんぶ自分で背負うとするな。仲間を信頼せい」


「じ、じいさん……」


「大丈夫じゃ。ワシは負きゃあせん」


 アルトリアはくるりとルイスを振り向き、にこやかな笑顔で親指を立ててみせた。


「帰って、二人でフレミアのでかパイでも触ろうではないか。……アリシアのでもいいが、おぬしが怒るだろうからな」


「……はははっ。こんなときまで、なに言ってやがる」


「ふっ。これでこそワシじゃろう」


 それからすっと表情を引き締めると、アルトリアは再び大猿へ駆けていった。その背中は、ゾンネーガ・アッフよりも大きく見えた。


「ウガアアアアアアッ!」


 対するゾンネーガ・アッフも高速で拳を突き出す。

 アルトリアが紙一重でそれを避ける。

 反撃とばかりにアルトリアが剣を振り払うが、ゾンネーガ・アッフの強靱きょうじんな肉体には、中途半端な攻撃ではダメージが通らないらしい。


 アルトリアは決定的な一撃を与えられず、ゾンネーガ・アッフの攻撃も避けられる。なかなかに決着のつかない攻撃の応酬おうしゅうが続いた。


「…………」


 ルイスはすべての意識をゾンネーガ・アッフに向ける。隙あらばいつでも斬りこみたいところだが、やはり、あいつは頭がいい。


 こちらの作戦などとっくにお見通しのようで、ときおり、ちらちらとルイスに視線を向けてくる。そのせいか、まったく隙が生じない。


 ――まずいな。

 ルイスの頬を冷や汗が伝った。


 このまま戦闘が長引けば、体力に劣るアルトリアが圧倒的に不利だ。いくら達人であっても、彼は還暦を迎えた人間。いずれ体力の限界が訪れるはずだ。実際にも、アルトリアの動きに遅れが生じつつある。


 その変化を、ゾンネーガ・アッフは確実に読みとったようだ。


「ギュオオオオオオ!!」


 再び、あの低く唸るような叫び声を響かせ。

 アルトリアの周囲に、無慮むりょ百もの小猿を出現させた。


「ぬっ……!」


 さすがのアルトリアもこれには対処しきれなかったようだ。一匹の小猿に背中を引っかかれたのを契機けいきに、多くの小猿がアルトリアに群がっていく。数の力で、たったひとりの老人を傷つけていく。


「ぬうっ……かはっ!」


「アルトリア!!」


 もう我慢の限界だった。

 ――残りの体力など知ったことか!


 スキル発動。《無条件勝利》。

 ルイスがそう心中で唱えたのと同時に。


「ギャッ!」


 さっきまでアルトリアを蹂躙じゅうりんしていた小猿どもが、一瞬にして崩れ落ちる。さすがは無条件勝利というだけあり、弱い魔獣なら問答無用で倒してくれるようだ。


「アルトリア、平気か!」


 ルイスは急いでアルトリアのもとに駆けていった。

 老いたとはいえ、さすがは元Aランク。小猿ごときに群がれても、大怪我まではしていない模様である。


 アルトリアは剣を地面に突き立て、片膝を地面につく姿勢で言った。


「くうっ……申し訳ないの……。でかい口叩いておいて、このザマとは……」


「もういい。よくやってくれた。次は――俺が出る」


「だ、だが、おぬし、動けるのか……?」


「いまのでレベルが上がったようだ。ブラッドネス・ドラゴンと、小猿を二百匹くらい倒したことによってな」


「レ、レベルじゃと……?」


 ルイスの視界には、現在、自身のステータスがありありと映っていた。


 

《 レベルが上がりました。


  筋力……63

  魔力……34

  体力……78

  敏捷度……122  》



 体力の数値が上がったことで、さっきまであれほど重くのしかかっていた疲労感が、五割ほども減少した。


「……いまならわかる気がするよ。なんで俺のレベルアップが遅いのか」


 無条件勝利だけでもチートなのに、タフな体力までをも持っていたら――それこそ、このチートスキルを無尽蔵に使えるようになってしまう。いくらなんでも強すぎる。


 ルイスは思った。


 ――今後の努力によっては、レベルもスキルも、どんどん向上していく。


 俺がそうと望めば、かの伝説の勇者とも肩を並べられる存在になれる……!


「いくぞ化け物。今度は……俺の番だ」


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