おっさん、さらに仕事が早くなる
集落を出るとき、ヒュースは深刻そうに言ってきた。
「気ィつけろよ。近頃、魔獣がわんさかうろついてるって話だ。厄介そうな奴がいたら遠回りしてもいい。どうか無事に帰ってきてくれよ?」
ヒュースは、ルイスがギルドに在籍していた頃のランクを知っている。だからこそ親切心でそう忠告してくれたわけだ。
代わりに答えたのはアリシアだった。
「大丈夫ですよう。いまのルイスさんは、そんなことする必要ないんです!」
「へ?」
「だって、ルイスさんは……いたっ!」
自分のことのように鼻を伸ばすアリシアをコツっと小突くと、ルイスは乾いた笑いを浮かべて言った。
「忠告、感謝する。できるだけ急ぐから、患者のことはよろしく頼む」
「……はは、相変わらずだなあんたたちは。首を長くして待ってるぜ」
苦笑いするヒュースに手を振り、ルイスとアリシアは集落を後にしたのだった。
今回の依頼に必要な薬草は三種類。
カイドウシ。サヒロム。アレンカ。
どれも風邪の諸症状を緩和する成分が含まれている。ヒュースが言うには、現在の集落ではやはり風邪が流行っているようだ。病人らのためにも、すぐにでも薬草を届けなければならないだろう。
幸い、これらの薬草はすべて近隣の森林で採取できる。そうそう時間は取らないだろう。
新人冒険者は、それこそ膨大な時間を《草むしり》に費やしていたようだが、これくらいすぐに終わる依頼である。改めて、現在のギルドの慌てっぷりが伺える。
「――もう! 別に自慢したっていいじゃないですか!」
道すがら、アリシアが不満そうに唇を尖らせた。まだ怒っているようだ。
「いまのルイスさんはお父さんより強いんですよ! 別に隠さなくたって……」
「いいんだよ」
ルイスは後頭部をかきむしる。
「面倒くせえことになったらどうすんだ。俺はのんびり暮らせりゃそれでいいんだっての」
ルイスにとって、富も名声もどうでもいい。
そんなものよりも、うまい酒をちびちび飲みながら、家でゴロゴロしていたほうが性に合っている。
だが。
仕事においてはのんびりしていられない。
集落の患者たちを守るため、ルイスたちは最短ルートで森林へと向かっていった。平原のど真ん中、嫌でも魔獣たちの目に触れる場所を堂々と歩いていったのである。
「ウゴオオオオオオ!」
「――出ましたよルイスさん!」
「ああ。任せとけ」
やはりというべきか、途中で魔獣たちに道を阻まれたが、すべて《無条件勝利》によって斬り倒していく。
たった五分。
冒険者だった頃は数十分かけてやっと辿り着いた森林に、いまのルイスはたった五分で到着した。
薬草の採取もむかしからやり続けてきた仕事だ。アリシアの手も借り、たいして時間もかかることなく依頼をやり終えた。
★
「え……!? も、もう戻ってきたのか?」
だから再び集落に戻ったとき、ヒュースは目をまん丸にした。ルイスが差し出した、薬草がたんまり入っている袋を、なかば唖然とした表情で受け取る。
「おう。頼まれた量と種類はばっちり満たしているはずだぜ」
「……う、嘘だろ……?」
ヒュースはいまだ唖然とした表情で袋を覗き込み、そして驚愕の声をあげる。
「す、すげえ……全部しっかり揃ってる……雑草もない……」
「おかしな奴だな。当たり前だろ」
そもそもおかしいのはギルドのほうだ。薬草採取の依頼を、雑草などでごまかすなど。
「とりあえずそれで薬を作れるはずだ。報酬は後でいいから、はやく患者に届けてやんな」
「か、患者……」
その言葉で我に返ったようだ。
「お、おう! 悪いが、ちょっと待っててくれ!」




