おっさん、おっさんに歓迎される
ルイスたちはまず、ヒュース・ブラクネス――《薬草の採取》の依頼者を訪ねることにした。
当然というべきか、ルイスはこの依頼者を知っている。彼は何度もギルドに依頼を出していたので、必然的にルイスが向かうことになったのだ。
言ってみれば顔馴染みである。
だから初仕事とは言い難いものの、気を引き締めて業務に当たらねばならない。
弱いからこそ慢心せず、日々謙虚に。それが昔からのルイスの流儀だ。いまとなっても崩すつもりはない。
ちなみに、依頼者――ヒュースはリッド村から数キロ離れた集落に住んでいる。その集落では《お医者様》として貴重な人材であり、いつも誰かしら患者を抱えているようだ。
ヒュース本人が薬草を採取しにいけないのはそれが理由である。かといって、なんの知識もない素人に任せられる仕事でもない。
「魔獣退治とは質が違うけれど、これだって緊急性の高い仕事ですよね。ルイスさん」
平原を歩きながら、アリシアが憮然として言う。
「まったくだな。すこしでも遅れたら――患者の命に関わる」
いまの冒険者どもにはそれがわからないというのか。
魔獣退治だけがギルドじゃない。
それもわからず、ただ馬鹿みたいに剣を振るっているようでは、人のための組織とは到底いえない。
先頭を歩くアルトリアが、こちらを振り向かないまま、低い声で言った。
「愚かなものよ。目先の名声に溺れ、本来やるべきことを忘れるとは……」
「アルトリアさん……」
ルイスは小さく呟いた。
まあ、いまのギルドだって手一杯なのだろう。彼らは彼らなりにやっているはずだ。
だが――この現状はあまりにお粗末に過ぎる。さんざんルイスを除け者扱いしておいて、その末路がこれとは。
「ま、愚痴なんぞなにも生みゃあせん。ワシらは、ワシらにしかできないことをやっていくぞ」
「了解です」
「はいっ!」
★
「おお、アルトリアか! よく来てくれた! 助かったよ!」
集落に到着したルイスたちを、小太りの男性が出迎えた。
彼こそがルイスの元常連客――ヒュース・ブラクネスだ。
「ギリギリ薬草を切らすところだったよ! 本当に来てくれて助か――ん?」
ヒュースの視線が、アルトリアの背後に立つ新人二人に向けられる。
「お、おまえら、ルイスとアリシアじゃねえか! なんでこんなところに……!」
「わはは。ちょいと訳ありでの。こいつらも今日からワシと一緒に働くことになった」
「え……ま、マジか!?」
ヒュースは大きく目を見開き、とんでもないスピードでルイスの元に走り寄ってきた。
「なんだ、なんだよぉ。あんたじゃなくて新人っぽい冒険者が来たときは驚いたけど……そっか、ギルドを辞めたんだな」
「まあな。俺にも色々あったわけさ」
「そのへんの事情はまあ聞かねえでおくよ。――でも助かったぜ! ルイス! あんたなら安心して依頼を任せられるよ!」
そう言いながら肩を揺らしてくるものだから、ルイスは慌ててヒュースを制する。
「お、落ち着けって。言われなくてもちゃんと薬草を見つけてくるさ」
「わかってる。わかってっけど……なんか安心しちまったよ。ルイス。やっぱりあんたなら仕事を任せられる」
「あ、相変わらず大げさな奴だな……」
「それだけルイスさんの信頼が厚いんですよ」
アリシアが微笑を浮かべながらそう言った。
――信頼、か。
昔がむしゃらで頑張ってきたことが、こういった形で返ってくるのは本当に嬉しいものだ。
若い頃の努力は無駄ではなかった。素直にそう思えるから。
「あ、信頼っていえばよ」
ヒュースは思い出したように、懐から黒い袋を取り出した。
「見てくれよ。これが新人冒険者が届けてきた《薬草》なんだが……」
「……え?」
ルイスは中身を覗き込み、そして絶句する。
薬草――どころの話ではない。
そこらへんに生えている、なんか風邪に効きそうな草を適当にむしってきたような……そんな風にさえ見える草の寄せ集めだった。もちろん、実際に薬草としての効果はない。
「俺も忙しかったから、中身を確認しねえで新人を帰しちまったけど……こりゃ、いくらなんでもひどすぎねえか? 最近のギルドはどうなってんだよ?」
「いや……」
思わず口ごもってしまう。
こういう不手際を防ぐために、在籍期間の長い冒険者が付き添うはずなのに。多忙なためか、その決まりがまったく機能していないようだ。まったくをもって杜撰にすぎる。
「これはウチだけの話じゃねえ。道案内を頼んだのに、まるで関係ないルートを何度も歩かされたっていう話も聞いた。こんなんじゃ、いずれギルドの信頼がなくなるぞ?」
「まあ……そうだな」
とはいえ、もうルイスには関係ない話なのだが。
「安心せい。そういうときのためにワシらがいる」
アルトリアがにかっと笑って話をまとめた。
「ルイス。この依頼はおぬしに任せたほうが早そうじゃ。アリシアとともに、正確に――かつ迅速に対応に当たってくれ」
「そ、それはいいが、あんたはどうするんだ?」
「残りの依頼はこの近辺の魔獣退治じゃ。ワシがかるーくぶっ飛ばしてくるから、おぬしは一刻も早く薬草を探してこい。患者たちのためにな」
「なるほどな。わかった」
まあ、アルトリアのことだ。薬草を一定数見つけてくるまでには帰ってくるだろう。
「それじゃ、いったん解散じゃ。二人とも、気張っていけよ」
「了解!」
「はい!」
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