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おっさん、英雄への道をたどる

 スキル発動。

 ――無条件勝利。


 そう心中で念じた途端、ルイスは狂わんばかりの熱エネルギーを自覚した。


 数日前と同じように、全身から湯気が立ち上っていく。心なしか、その量が前回より多い気がした。


「……ん?」


 ふいに小さな声を発してしまう。


 これも気のせいかもしれないが――スキル使用による身体への負担が減っているように感じられた。それでいて、妙に身体に馴染むのだ。


 ――戦いの果てに、俺も成長しているということか。


 だが、そのことに感慨を抱いている場合ではない。ルイスはきっと表情を引き締めると、さきほどと同じように太刀を構える。


「な、なんだ、あれは……!」

「あいつ、なんだか様子が変わったぞ……!」

「へ、変な変身したって、あのおっさんは弱いもん! 自分でそう言ってたもん!」


 村人たちが口々に喚き立てるが、その喧噪さえ、ルイスの意識にはなかった。ただ神経を研ぎ澄ませ、老年の凄腕剣士――アルトリア・カーフェイの一挙手一投足に集中する。


 そのアルトリアは大きく目を見開いたまま、ごくりと唾を飲み込んでいた。


「な……なんと……、こ、これほどとは……!」


「……これが《無条件勝利》です。どうですか、やはり中断しますか」


「む、無条件勝利……」


 アルトリアはまたも目を見開くと、はははと乾いた笑みを浮かべた。口角は上がっているものの、目は笑っていない。


「あ、会えて嬉しいぞ。ルイス」


 ――引かないか。


「俺もこのスキルを取得したばかりです。うまく扱うことができません。もし身の危険を感じたら逃げてください。いきますよ――」


「…………!」


 言い終えるのと同時に、ルイスは全力で地を蹴る。


 周囲の光景が急速に後方に流れていく。

 自身そのものが風になった感覚を肌に感じる。


 アルトリアの動きはひどくスローモーションに見えた。


 ルイスが駆けだしたことに気づき、慌てて剣を取り出しているようだが、そのときにはルイスは攻撃の体勢に移っていた。


 ――心眼しんげん一刀流、一の型、極・疾風。


 すぐさま太刀を振り払い、アルトリアの剣の中腹に衝撃を与える。


「なっ……!」


 アルトリアはなにが起きたかわからなかったとでもいうように、ぎょっと後ろを振り向いた。その先には、ルイスに切り払われ、大きく吹き飛んでいった剣がある。


 カキンという金属音とともに、剣は地面に激突した。


「…………」


 誰もが固まっていた。

 アルトリアも、村民らも、そしてリュウさえも。


「ふう……」


 ルイスは小さく息を吐くと、ゆっくりと太刀を鞘に納めた。ついでにスキルを解除し、無駄な体力を使わないようにする。


「どうしますか。まだ続けるなら構いませんが……勝敗は明らかかと」


 アルトリアはなおも放心しきった様子でルイスと後方の剣を見やっていたが、数秒後にはさすがの冷静さを見せた。


「……ああ。そのようだの」

 そしてルイスの肩にぽんと手を置く。

「おぬしの勝利じゃ。ルイス・アルゼイド」


 瞬間。


「おおおおおおっ!」


 弾けるような歓声が湧いたと思いきや、村民らが猛スピードでルイスに駆け寄ってくる。


「すげえ! 何やったんだいまの! まったく見えなかったぞ!」

「アルトリアさんに勝つなんて! これでこの村は安泰ね!」

「か、かっこよかったです……。見えなかったですけど」


 老若男女問わず、多くの人々がルイスを誉め称える。なかには驚くような美人もいて、年甲斐にも鼻を伸ばしそうになってしまった。


 それにしてもすんごい熱狂だ。みんなルイスを囲んだまま胴上げでもしそうな勢いである。


「ちょ、ちょっと待ってください!」

 慌ててアルトリアを見やる。

「な、なんですかこれは! アルトリアさんも止めてくださいよ!」


 しかし老年の剣士はわっはっはと愉快そうに笑うのみだ。


「気づいたほしかったのだよ。いまのおぬしは強い。……こうして、村人全員に称えられるくらいにはな」


「あ……」


「四十歳だからとか、枯れてしまったとか、そんなことは言わんでくれ。おぬしはまだ若い。人生の折り返し地点にいるにすぎん。いまからでも……できることは沢山ある」


「アルトリアさん……」


 再びアルトリアはにかっと笑った。


「そういうことだ。明日からはワシの手伝いでもしてくれんかの。ギルドにはできない形で、困っている者たちに手を差し伸べる仕事だよ。あ、給料には期待しないでおくれ」


 ――それもいいかもしれない。


 辺境の村でのんびり過ごしながら、ギルドにはないフットワークの軽さで村民らを助けていく。そんな生き方も悪くはないだろう。人々を助けたいという、ルイスの夢にも合致する。


「……わかりました。明日から、よろしくお願いします」


「うむ。こちらこそな」


 男同士、がっちりと握手を交わした。


 すると。


「あ、あの……」

 小さな男の子――リュウが、もじもじしながらルイスに声をかけてきた。

「ルイス……さん。ごめんなさい。ぼく、ルイスさんが強いの知らなくて……ひどいことを……」


「ああ、そんなことか」

 苦笑いを浮かべ、頭にぽんと手を乗せる。

「気にするなよ。そんなことはもう忘れたさ」


「ゆ……許してくれるの?」


「まあ、そうだな。別に怒ってたわけでもないが」


「ご……ごめんなさい……ごめんなさィ……!」

 そう言いながら泣き出してしまう。

「ぼく、精一杯頑張るから……! ルイスさんの弟子になるから……!」


「いや。弟子にはならなくていいが……」


「わっはっは。小さな弟子の誕生じゃな」

 脇で、アルトリアが微笑ましそうにルイスらを眺めていた。

「よし、今夜は宴にしよう。みんな、どんどん酒を持ってこい!」


 





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