おっさん、相棒を認める
「はぁ……はぁ……」
ルイスは片膝をつき、荒い呼吸をなんとか整えた。
汗はダラダラ、あちこちの筋肉が悲鳴をあげている。もう一歩たりとて動きたくない。
四十手前のおっさんにはちょっとばかし応えてしまう。ていうか気絶しそう。
「ルイスさん! ルイスさん!」
そんなおっさんに真っ先に駆けつけたのは、相棒のアリシア・カーフェイだった。背中をさすり、心配そうに顔を覗き込んでくる。
「……はは、良かった。お元気そうですね……」
そんな彼女は、やはりというべきか若干目が腫れていた。こんな惨めなおっさんを、ずいぶんと気にかけてくれたようだ。
「馬鹿いえ。こちとらもう死にそうだ……」
かすれる声を発しながら、ゆっくりと視線をずらす。
ブラッドネス・ドラゴンは完全に動かなくなっていた。目を閉じ、地面に横たわったまま呼吸すらしていない。
――無条件勝利。
やはり恐ろしいスキルだ。
古に伝わる巨大竜を、まさかたった一撃で撃破せしめるとは。
いまはまだ使い慣れないが、もしこの最強スキルを極めることができたら――俺はもっともっと強くなれるんじゃないか。それこそ、むかしから憧れてきた勇者エルガーのように。
「あ、いけない、私……」
我慢の限界が訪れたのか、アリシアの瞳からぽろぽろと滴が落ちていく。
「やだ、その、見ないでください……」
恥ずかしそうに顔を覆ってしまった。
「見ねえよ。俺のほうこそ――土壇場での回復魔法、助かったぜ」
「怖かったんです。あのままルイスさんが、竜に殺されるんじゃないかって……」
「はっ。そう思うんだったら、いちいち詠唱なんかすんなっての」
両手の奥で、くすっと笑う声が聞こえた。
「……わかっていただけましたか? かっこよかったでしょう?」
「ああ。ちょっとだけ、な」
――ありがとよ。
小さくそう呟き、アリシアの肩に優しく手を置いた。
「……本当に驚いた。本当にひとりであの怪物を倒すとは……」
ふいに声をかけられ、のっそりと顔をあげる。
女兵士――サクヤ・ブラクネスだ。
「……私でもあの竜には勝てる気がしない。というか、人間に勝てるような相手ではなかった気がするな。敬服するよ」
「もう、サクヤさん」
プリミラ皇女も話に加わってくる。
「いまのは話しかけちゃいけないところですわ。良い雰囲気だったんですから」
「……良い雰囲気? すみません、なんのことだか……」
「はぁ……」
皇女が呆れたようにため息をつく。
「いえ、なんでもありませんわ。私もすこしだけ、妬いてしまうところでしたから」
「…………?」
「こほん」
皇女は咳払いをすると、今度はルイスの名を呼んだ。
「見てください。ルイスさん。まわりの光景を」
言われて顔をあげ、視線を一帯に巡らす。
まさに戦場の跡地だった。
あちこちで人が倒れている。果敢にも魔獣らに挑み、そして破れていった兵士たちだ。
また、そこかしこの建築物が軽微ながらも被害を受けていた。魔獣あるいは古代竜に壊されたか、窓が破れていたり、壁に穴が開いているものがほとんどだ。
木々も三割がた燃やし尽くされている。美しい帝都の姿はもうない。
「見ての通り、帝都はひどい被害を受けてしまいました。……ですがルイスさん、あなたがいなければ、さらに悲惨な結末を迎えていたと思います。あの竜には、いまの兵力では到底勝てなかったでしょう」
「…………」
「これはあなたの立派な功績です。過去がどうあれ、Sランクに昇格にするにふさわしい結果を出してくださいました。――それでも、ギルドを辞められますか?」
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