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死亡フラグくらいへし折ってやる

 午後九時。


 ルイスはヒュースらと静かな酒を嗜んだ。

 ドンチャン騒ぎをするわけでもなく、かといって暗い酒になるわけでもない。それぞれ明日への覚悟を決めた形だ。


 ヒュースには、娘たるサクヤ・ブラクネスが。

 アルトリアには、フレミアやアリシア、そして故郷の村人が。


 それぞれ守る者がいる。


 サクセンドリア帝国はあまりに強大な敵だが、それでも絶対に負けないことを三人は誓った。


 そして。

 決戦を前に、ルイスは一番大事な人に会いにいくことにした。





 拠点とする洞窟には、いくつかの《部屋》が存在する。


 ちょっとしたくぼみに木製の扉を設えただけの、あくまで簡易的な部屋だ。快適とは言い難いが、プライバシーは問題なく守ることができる。


 その部屋のひとつに、大事な想い人――アリシア・カーフェイがいた。


「起きてるか……アリシア」


 ノックとともにそう告げると、扉の奥から

「え!? ルイスさん!?」

 と素っ頓狂な声が聞こえてきた。


「ちょっと待っててくださいね、いま片づけますから!」


 ドタバタガッタンドッタン!

 室内から妙に慌ただしい音が聞こえてくる。デジャブを感じるのは気のせいか。


 ――片づけるって、もうそんなに汚したのかよ。

 心中でため息をついていると、のっそり扉が開かれた。


「すみません。ちょっと準備してまして……」


「は? 準備?」


「な、なんでもないです。さあ、お入りください」


 いまさら恥ずかしそうに頬を染めながら、アリシアが室内の状況を晒した。俺たちはもう恋人の関係なのに、いったいなにを恥ずかしがるのか……そんな疑問は、部屋の様子を見て吹き飛んだ。


「お、おいおい。こりゃあまさか……!」


「は、はい……」


 薄暗い部屋には――白銀のドレスが飾られていた。

 しかもところどころが翡翠色に輝いており、かなり手が込んでいるのがわかる。一朝一夕で作れる代物ではない。


「実は、暇を見つけてちょくちょく作ってたんです。いまちょうど完成したんですよ」


「ちょくちょくって……」


 そんなことをしていたのも驚きだが、それよりも……


「アリシア。これは……あれだよな」 


「はい。結婚式に使うドレスです」

 言うなり、彼女は一目散に胸に飛び込んできた。

「私……ルイスさんとずっと一緒にいたい。たとえ故郷がなくなっても、国の情勢がどう変わっても……ルイスさんがいれば……」


「アリシア……」


 健気な彼女の頭を、ルイスはそっと撫でる。


 ――振り返れば、そうだ。


 俺の人生は、こいつとの出会いで変わったんだ。


 最低辺をさまよう俺を、ずっと慕っていてくれていて。

 ギルドを追放された俺を、実家に匿ってくれて。


 いつもはふざけている彼女だけれど、アリシア・カーフェイは俺にとってかけがえのない人。


 たとえ何人たりとも、その事実を覆させはしない。


「アリシア……俺も」

 彼女の肩を引き寄せ、ルイスは小さく呟いた。

「おまえとずっと一緒にいたい。明日の決戦で世界情勢がどう変わるのか、正直想像もつかないが……それでも、おまえがいれば……それだけでいい」


「ルイスさん……」


 小声を発する彼女は、すこしだけ泣いていて。ほんのり頬をピンク色に染めて、天上のごとき美しい笑顔を浮かべていて。

 いままで会ったどんな女性よりも、綺麗で大事な人だった。


「だから」

 そんな彼女の瞳を、ルイスはしっかりと受け止めた。

「結婚しよう。必ず戦いを終わらせて……二人で」


「あ……」

 大きく目を見開くアリシア。

「ふふ……。駄目ですよルイスさん……いま盛大な死亡フラグが立っちゃいました……」


「はは。心配するな。そんなフラグなんざへし折ってやるさ」


 そうしてルイスとアリシアは、いつまでも抱きしめあっているのだっった。

 


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[一言] 蘇れ……蘇れ……
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