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凄腕召喚士ヒュース・ブラクネス

 開戦の時間まで、ヴァイゼを初めとする首脳たちは作戦会議に打ち込むこととなったようだ。


 個別の軍団をまとめるからには、言うまでもなく相応の連携が必要となる。また帝国軍は《無条件勝利》を使用してくることが考えられるため、ただ悪戯に兵力を投入するだけでは勝てない。

 作戦を成功させるには、入念な事前準備がキモとなるだろう。


「では、まず想定される帝国軍の兵力ですが……」


 首脳たちは真剣きわまる表情で会議を始めた。どうやら重鎮のなかには各国の軍師も集まっているようで、濃密に情報を共有しあっている。


「ただいま……って、あらら?」


 また時を同じくして、王城の偵察に向かっていたフレミア・カーフェイが帰還した。調査の目処がついたのだという。


「おお……!」

 さっきまで会議に打ち込んでいた軍師が立ち上がる。

「まさか……あなたはカーフェイ元中将ではありませんか?」


「あら? 私のことをご存知なのですか?」


「勿論です。すさまじい斧の使い手として、我が国でも有名でございますから」

 なるほど。


 たしかに戦闘となると彼女は色々すごいからな。

 その筋では有名人なんだろう――とルイスは思った。

 かの軍師も目を輝かせながらフレミアを出迎えている。


「あはは……まあ、昔の話ですけどね」


 対するフレミアはちょっと気恥ずかしそうだ。


「いえいえ。あなたがいれば会議もスムーズにまとまるというもの。どうかお力を貸していただきたい」


「は、はあ。では城の調査結果も含めて、みなさんにお伝えするとしましょう」


 ここにルイスたちの入る余地はないだろう。

 ――気分転換も含めて、外の風にでも当たってくるか。

 そう決めたルイスは、ひとり洞窟の出入り口へと向かうのだった。


  ★


「ん……?」


 洞窟を出たルイスは、思わず目を細める。


 どうやら先客がいたようだ。


 ――ヒュース・ブラクネス。

 神聖共和国党しんせいきょうわこくとうのリーダーにして、かつて帝国で大規模なテロを起こした張本人。


 かつては薬剤師として活動していたが、それは表の顔に過ぎなかった。《気のいいおっさん》を演じておきながら、その実、共和国のスパイだったのである。


 本来なら帝国で服役しているはずだが、皇女プリミラが一時解放を許可して以降、いまも一旦協力してくれている。


 改めて、彼も数奇な人生を送っていると思う。ヴァイゼやレストに操られ、帝国で無差別殺人事件を起こしたこと。本当はヴァイゼたちが憎いだろうが、それでも現在は結託していること。


 明日の戦争を前に、彼はいったい、なにを思うのだろう。


 ぽつり、と。

 弱々しい雫が、ルイスの頬を掠っていく。

 わずかながら天候が崩れつつあるようだが、すこし話すだけなら問題ないだろう。


「……よう」


 そう声をかけて、ヒュースの隣に並ぶ。


「む……」

 ヒュースはルイスをちら見すると、再び視線を正面に戻した。

「ルイスか。なんの用だ」


「別に。あんたらが事件を起こしてから、ろくに話しないと思ってな」


「そうか……。操られていたとはいえ、当時は迷惑をかけたな」

 そこで諦観の表情を浮かべるヒュース。

「不思議なものだ。当時は皇帝ソロモアを討つことに執心していたが、いまはなんともいえない心境だよ」


「…………」


 それもおそらく、ヴァイゼやレストによる《煽動》の結果だろう。

 帝国を悪と決めつけることによって、絶宝球を使う前に皇帝を滅ぼす――そのための前座として。


 サクヤのときも思ったが、なんと悲しい運命の絡み合いだろうか。


「ヒュース。ひとつ、おまえに話しておきたいことがあるんだが」


「む? なんだ」


 そこでルイスは先程の顛末てんまつをすべて話した。


 彼の娘――サクヤ・ブラクネスが敵側についたこと。

 サクヤが使者を蘇らせる力を身につけたこと。

 その力によって、アリシアの旧友が殺されてしまったこと。


「…………」


 ルイスが話している間、ヒュースは黙って聞いていた。ひたすら小雨に打たれながら、それでも身じろぎひとつしなかった。

 やがてすべての話を終えたとき――ヒュースは額に手を当て、くぐもるような声を発した。


死者蘇生ししゃそせいに村人の殺害……なんと皮肉なものだ……。私の人生をそのまま辿っているではないか……」


「あいつにはあいつの信念があるようでな。皇帝のやり方には賛同できないが、軍人として帝国を守るのが義務――そう言ってたな」


「そうか……」


 そして再び視線を正面に戻し、続ける。


「やはり父と子か。ここまで似るものとは」


「…………」


「ルイスよ。おまえには話してなかったな。俺が帝国でなにをしてきたか……そしてサクヤの幼少期も……」


「――ふむ。その話、ワシも入っていいかの?」


 ふいに話に入ってくる者がいた。


 アルトリア・カーフェイ。

 かつてルイスとともに《人助け》を行った家族・・であり、ともに神聖共和国党を打ち破った同志でもあった。


 アルトリアは優しげな笑みを浮かべると、軽くヒュースの背中を叩いた。


「――久しぶりじゃの、ヒュース。まともに話すのは集落で薬草採取をやったとき以来か」


 そういえばそうか。

 あれも随分昔のことに感じるな――とルイスは思った。


「アルトリアか。おまえさんにも、帝都では迷惑を――」


「謝罪などいらんわい。事の経緯は知っておる」


「だ、だが……」


「罪の意識があるならば償っていくがよい。皇帝ソロモアを倒し、一段落ついたあとで……な」


「はは……」

 そこで苦笑いを浮かべるヒュース。

「あんたもルイスも相変わらずだな……敵わんよ……」


「はっは。経験が違うんじゃよ経験が」

 そしてアルトリアは表情を改めると、ヒュースに問いかけた。

「あの事件を見届けた者として、ワシも気になるところではあった。サクヤ嬢の幼少期と、おまえさんがどのように活動してきたか……改めて、教えてはくれまいか」



一章でうっすら貼ってた伏線を回収します(ノシ 'ω')ノシ バンバン

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