おっさん、必死に帝都を守る。
再び、すさまじいまでの熱気がルイスにまとわりつく。高温のあまりに湯気が立ち上り、それがオーラのようにルイスの周囲を漂っている。
――が。
「ぐっ……」
思わず彼は呻き声を発した。
身体の節々にかすかな痛みがある。おそらく、今日修得したばかりの《無条件勝利》を立て続けに使用したからだと思われた。
いかにチートじみたスキルとはいえ、ルイス本人はどこにでもいる中年の男性だ。慣れないことを続ければ疲労も溜まる。
――長期戦はできねェな。短期決戦でケリをつける!――
そう覚悟を決めると、ルイスは突進の速度を引き上げた。
「グオオオオオッ!」
ブラッドネス・ドラゴンが雄叫びを発し、高速で尻尾を突き出した。
先端には見るもおぞましい三本のトゲがある。
一度刺されば致死量の毒をもらう。
すこし掠っただけでもアウトだ。
ならば。
「心眼一刀流、無の型・流水!」
ルイスは瞳を閉じると、速やかに太刀を鞘にしまった。ふうと息を吐き、気息を整える。
――空気の流れ。
――ブラッドネス・ドラゴンの息づかい。
――わずかな音の変化。
それら周囲の情報すべてを、ルイスは無意識のうちに取り込んでいく。
「グオオオオオッ!」
ブラッドネス・ドラゴンがすさまじい速度で尻尾を振り下ろすのを、ルイスはありありとイメージできた。あとは半自動的に身体が動き、無駄のない動きで尻尾をかわす。
「ガアアアアアッ!」
その後も神速的なスピードで尻尾を打ち付けてくるが、ルイスにはかすりもしない。ごくごく最小限の動きで、ブラッドネス・ドラゴンの攻撃をかわしていく。
――これが心眼一刀流、無の型・流水である。
あえて武器をしまい、無駄な装備をなくすことで感覚を研ぎ澄ます。そして最小限の動きで避ける。かの伝説の勇者エルガーも、この技を用いてブラッドネス・ドラゴンと戦った。
尻尾を回避しながら、ルイスはブラッドネス・ドラゴンとの間合いを詰めていった。
体長の差を考えれば、どうしても相手のほうがリーチが長い。だが、うまく距離を詰められれば――
そんなルイスの企みを察したかのように、ブラッドネス・ドラゴンはぴたりと攻撃をやめた。ルイスの太刀がギリギリ届かないところだ。さすがは古代竜だけあって、頭もいいようだ。
「グオオオオオッ!」
そのまま叫声を発し、ブラッドネス・ドラゴンは大きく口を開けた。
おぼろげな漆黒の球体が口のなかで生成され、膨らんでいく。ブラッドネス・ドラゴンを中心として、漆黒の波動が広がっていく。
――これは……!
ルイスはかっと目を見開き、慌てて太刀を鞘から抜いた。
あの技には聞き覚えがある。
ブラッドネス・ダークホール。
古の文献によれば、取り込まれた者の精神を丸ごと食らいつくし、死ぬまで放心状態にさせるという恐るべき大技だ。避けるのは簡単だが、もし誰かに当たったら取り返しのつかないことになる。
ルイスは充分に気合いを込め、ブラッドネス・ドラゴンの攻撃に備えた。
――一方で。
脇で戦闘を見守っていたサクヤが、アリシアに問いかけた。
「なんか……不思議ですね。ルイス殿がEランクであることを差し引いても……彼のあの戦い方は、怪物の動きをまるで熟知しているかのようです」
「はい……おそらく、全部知ってるんだと思います」
「……え?」
「ルイスさんは頑張り屋ですから。あらゆる魔獣の対策法を、昔から勉強していたんでしょう」
そしてその努力が、結果的には劇的に結びついたわけだ。
「な、なんと……」
サクヤは目を見開き、アリシアをまじまじと見やった。
「我々も魔獣の対策くらい勉強しますが……あんな、見知らぬ怪物との戦い方まで勉強していたというのですか!」
「はい。それが……ルイスさんですから」
「信じられない……。なぜ彼ほどの傑物がずっとEランクなどと……」
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