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帰ってきた師匠はまた強くなっていた

 突然現れたその男。

 かつてアリシアとともにリッド村を訪れ、その後はカーフェイ一家にずっと泊まっていた男。


 普段は弱々しく見えるが、太刀を持てば雰囲気はガラリと変わる。そして元Aランク冒険者たるアルトリアをも凌ぐ力を持っている。


 忘れたくても忘れられない。

 最強にしてリュウの師匠でもある、その男の名は。


「ル、ルイス師匠……」


 リュウの呟き声に、ルイスはやれやれと肩を竦めた。


「師匠か……。いまだに呼び慣れないな」


 相変わらずの余裕のある態度。

 近いようでいて、はるか遠い場所にある頼もしい背中。


「「ルイスさんっ!!」」


 リュウは思わず涙を浮かべ、ルイスのもとに駆け寄った。ミュウも同じ気持ちだったのか、ルイスのもとへと走り寄っていく。


「師匠……! い、いままでどこに行ってたんですか……!」


「おっと」

 二人を受け止めるや、ルイスは頭を撫でてきた。

「ちょっとな。共和国方面できな臭い話があったからよ」


「きょ、共和国……? ユーラスに行ってたんですか……?」


「ああ。もう心配すんな」


「で、でも、外には闇の壁がありますよね? どうやって来たんですか?」


「え、えっと……まあ……」

 そこで困ったように頬をかくルイス。

「ま、まあ色々さ。あとで話すよ」


 なんとスケールのでかい話だ。

 やはり師匠は理解の範囲を超えている。

 聞いた話だと、闇色の壁を突破しようとした侵入者はことごとく死んでいったはず。それをくぐり抜けてきたというのだ。


 だが、もはやこの際、《どうやって来たのか》なんてどうでもいい。


 いつも理解を超えてくる――それが、ルイス師匠なのだから。


「き、貴様、ルイス・アルゼイドか! なぜこのタイミングで……!」


 ふいに男兵士が叫び声を発した。


 ルイスはきっと兵士を見やると、一転して厳しい表情を浮かべた。


「ヴァイゼの読み通りだったってことだ。これ以上、おまえらの好きにはさせねえぞ」


 ヴァイゼ……って。

 もしかしなくても、ユーラス共和国の大統領では……?


「師匠。もしかして、大統領も仲間なんですか……?」


「まあな。一時的にだが」


「は……ははは……」


 思わず乾いた笑みを浮かべてしまうリュウ。

 やはり師匠は偉大だ。

 闇色の壁を突破するだけに留まらず、ユーラス共和国のトップと手を組むとは。


 これほどに素晴らしい人物を、リュウは知らない。隣のミュウも、安心に包まれたかのようにルイスに抱きついている。


「――さて」

 ルイスはもう一度、リュウとミュウの頭をぽんと叩いた。

「すまないが、あいつを倒さなきゃいけなくてね。すこし離れててくれないか」


「あいつを……そ、そうだ、師匠!」

 リュウはすがるように師匠を見上げる。

「あいつ、なぜか《無条件勝利》を使えるんです! 注意したほうが――」


「ああ……知ってるさ」


「え……」


 そしてきっと兵士を睨みつけながら彼は言った。


「安心しろ。あんな奴に……俺は負けない」


「は……はい……」


 そこまで言われては二の句も継げない。思わずたじろいでしまったリュウは、指示通り、ミュウとともに数歩下がる。


 なんという風格だろう。

 彼がリッド村を離れていた期間、なにをしていたのかは知らないが――またしても存在感に磨きがかかっているような気がする。


「あれが……ルイスさん……」


 ミュウに至ってはやや頬が赤く染まっていた。


「くくく……ははは……っ! 馬鹿な奴め! 貴様にはこのオーラが見えんのかァ!」


 狂ったように笑いながら、兵士が親指で自身を指し示した。

《無条件勝利》の使用により発せられる熱気は、相も変わらずすさまじい。


 だがそれでも――ルイスの態度は微塵も揺らがない。

 ただひたすらに、ゆっくりと、兵士に向かって歩み寄るのみ。


「し……師匠……?」


 リュウは無意識のうちに首をかしげてしまう。


《無条件勝利》の強さは彼が一番よくわかっているはず。かつての戦いでは、古代魔獣や前代魔王さえも一撃で倒したと聞いている。


 それなのに。

 あの余裕っぷりはなんなんだ……?


「おらぁぁぁぁぁぁああっ!」


 ついに痺れを切らしたか、兵士が床を蹴る。


 ――は、速い!

 リュウはごくりと唾を飲み込んだ。

 さすが《無条件勝利》の使い手だけあって、兵士は一瞬でルイスとの間合いを詰めた。


 あのままでは――やられる。


「し、師匠ーーーーっ!!」


 あらん限りの声でリュウは叫んだ。

 いくら師匠が強くとも、《無条件勝利》使用者の攻撃をまともに喰らって、無事に済む……わけ……が……?


 そこまで考えて、リュウは大きく目を見開いた。


 兵士の剣はたしかにルイスの首筋に当たっている。

 その攻撃が命中した瞬間を、リュウはたしかに見た。


 それでも、ルイスは微動だにしていない。

 まるで……最初からなにも起きていなかったように。


「悪いな」

 ただそれだけを、ルイスはぽつりと呟いた。

「おまえは俺には勝てない。戦う前から決まってるんだ」


 いつしか、ルイスの風貌は若干の変貌を遂げていた。

 やや寝癖がかった黒髪は、儚くきらめくめく銀色へ。

《無条件勝利》の使用時に立ち上っていた熱気は、キラキラと星屑の流れるような白銀へ。


 常軌を逸した神々しさに、リュウは現在の状況をも忘れ、しばらく魅入ってしまった。


「か……神様……?」


 無意識のうちに発せられた自分の声をリュウは聞いた。


 と、同時に。


「ぐあああああっ!!」


 絶叫とともに、兵士はその場に崩れ落ちた。

 なにが起きたのか……リュウにはまったく見えなかった。




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