憧れのおっさん
なんだか恥ずかしくなったリュウは、しどろもどろになりながら答える。
「だ。だって、かっこよかっただろ。アルトリアさんとの試合」
「うん。かっこよかったけど……」
ミュウが言い澱んだ、そのとき。
「――おっと? ここかなぁ?」
聞き慣れない声が聞こえ、リュウは怖ぞ気を感じた。
振り返ると、リュウよりもずいぶんと背丈の高い、ひとりの兵士がにやにや笑っているのが見えた。
外を巡回している機械みたいな奴とは違う。たまに村にやってくる、雰囲気の悪い大人だ――
「な、なんだっ。おまえは」
急いで立ち上がり、手近にあった木刀を構える。かつてルイスと修行した際に使ったものだ。思い出の品だった。
「ほーほー。ガキが一丁前にやる気かよ」
「……みんなは、僕が守る」
「かー。泣かせるね。かっこいいよ僕ちゃん」
あくまでもヘラヘラ笑い続ける兵士。
「陛下からのお達しだ。リュウ。おまえの身柄を拘束する」
「こう……そく……?」
なぜだ。
意味がわからない。
なぜ急にそんなことになるのだ。
「まー、大人の事情ってやつがあんのよ。さ、おとなしくしようねー」
おかしい。
大人たちはどうしたのだ。
ずっと村を見張ってるって言ってたのに……!
「リュ、リュウくん、あれ……!」
ミュウが背中をつつき、とある一点を指さした。窓のある方向だ。
その窓を見やったとき、リュウは驚愕する。
大人たちが拘束されていたのだ。後ろ手を縄でしばられ、口にはテープが貼られている。
なんてことだ。僕たちが部屋で寝そべっている間に、外では大変なことになっていたようだ。
「ふふ、安心しろよ。殺しはしない。陛下からの命令だからな」
「おまえ……許さない……ッ!!」
「けけっ……。ガキィ、まだ戦う気かよぉ。言っとくけどな、俺は《無条件勝利》を使えるんだぜぇ?」
「え……」
その言葉に、リュウは思わず立ち竦んでしまう。
無条件勝利。
かつてルイスが使っていたスキルのことか。
「う……嘘を言うな!」
リュウは知らず知らずのうちに叫んでいた。
詳しいことはリュウにはわからないが、あれは相当珍しいスキルのはず。こんな男に使えるはずが……
「けっけっけ……そう思うならみせてやるよぉ……」
そこから先に起きた展開は、リュウには想像もつかない出来事だった。
醜悪な笑みを浮かべた兵士の周囲には、見覚えのあるオーラが立ち上っている。触れたら溶けてしまいそうなその熱気に、心なしか兵士の姿そのものが揺らいでいるように見えた。
ルイスとこんな男を重ねたくはない。
けれど。
「あ……あ……」
もはや見間違えようもなかった。
かつてルイスがアルトリアに対して使用した最強のスキル。
あれとまったく同様の現象が、見知らぬ男に起きている。
身体が震える。
歯の根が合わず、カタカタという音が口のなかで響きわたる。
もしあれが《無条件勝利》なのであれば、かつてルイスがそうだったように、古代魔獣や前代魔王すらも凌駕する力を持っていることになる。
どう見積もったところで、僕なんかが勝てる相手では……
「リュウくん……、私、怖い……!」
隣では、ミュウが青白い表情で裾を掴んでくる。いつもの陽気さはどこにもない。ただひたすらに、リュウにすがってくる。
――そうだ。
ルイスさんもアリシア姉ちゃんもそうだったじゃないか。
ギュスペンス・ドンナや前代魔王など、明らかに格上とわかっている相手にも、果敢に立ち向かっていったじゃないか。
アリシア姉ちゃんなんて、昔は全然魔法を使えなかった。自分の力はよくわかっていたはずだ。それでも立ち向かっていったんだ。
改めて思う。
あの二人はすごい。
そんなすごい人に、僕もすこしは近づきたい……!
「ま、負けるもんか……」
震える声でリュウは言った。
木刀をしっかり掴み、自分より絶対的に強いであろう男をしっかり見据え、あらん限りの怒声を発した。
「僕は負けない! みんなを守るんだ……っ!!」
「――よくぞ立ち向かった。それでこそ俺の弟子だ」
懐かしいような。
それでいて、ずっと待ち望んでいたような。
逞しくも力強い男の声に、リュウははっと目を見開いた。
ちなみに余談ですが、ルイスとリュウの修行シーンは書籍版の特典となっています。
まだあるかはわかりませんが、ぜひ見つけましたらご確認くださいませ。webであげてもよいのかしら(ノシ 'ω')ノシ バンバン
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