アルトリアからの依頼
「ひどいな……」
ソロモアの演説が終わったあと、ロアヌ・ヴァニタスがぽつりと呟いた。
「これではまるで、世界中の人々が人質になったようなものではないか……。信じられん……」
ルイスもまったく同感だった。
ソロモアに反逆した場合、その国は絶宝球によって滅すると。ソロモアはそう言ったのだ。これを独裁者と言わずしてなんと言う。
さきほど消滅させられたリーナ王国も、まさに政局のために消されたようなものだ。各国の首領たちは今頃、絶宝球の絶大なる力に震えているに違いあるまい。
そしてまた、ついさっき召喚された漆黒の天空城も、人々の恐怖を充分に煽るだろう。あんなもの、ユーラス共和国の技術力でも開発できまい。
ルイスが長年住んでいた故郷はまさに、過去最悪の大国となり果ててしまった。
「皇帝ソロモア……。ついに本性を現しましたね……」
フレミアが神妙な顔で呟いた。
「そうですな……。もう、体裁を保つ必要もないんだと思います。いまではほとんどの中小国が帝国側についていますから……」
そう。
敵はあまりに強大だ。
前代魔王やレスト・ネスレイアなど、こちら側にも頼もしい味方は大勢いるが、相手もチート級に強いのは違いあるまい。
ルイスはふうと息をつくと、フレミアに向けて言った。
「……王城への侵入はいったん保留にしましょう。あの妙ちくりんな天空城を調べてから突入すべきかと思います」
「そうですね……。異論はございません」
《だが、もたもたしていられる余裕はないぞ》
再びヴァイゼ大統領の声が会話に割り入ってきた。
《此度、ソロモアは世界の人々を人質に取り、反逆者を出さぬようにした。ルイスよ。これと同様のことが、おまえたちにも起こる可能性がある》
「…………!!」
ルイスははっと顔をあげた。
そう。
たしかにそうだ。
ソロモアにとり、ルイスたちは相当に厄介なはず。いまごろ必死になって探し回っていることだろう。
だから、ルイスたちに近しい者を人質に取り、いざというときの脅迫材料にする……
その可能性は充分にありうる。
ルイスの脳裏に、かつて世話になった人々の顔が浮かび上がった。
リッド村の住人たち。ヒュースのい集落の人々。帝都の住人たち。そして、いまは名もなきルイスの故郷……
「リュ、リュウくん……」
アリシアが心配そうに懐かしい者の名前を挙げた。
黙りこくる一同に向けて、レストが手を叩きながら言った。
「となると、手分けしたほうがよさそうだな。拠点を守るチーム、天空城の調査するチーム、救助チーム……全部で三つか」
その提案に、ルイスはゆっくりと頷いてみせる。時間はあまりないが、作戦会議をする必要がありそうだ。
全員で話し合った結果、以下のことが決められた。
まず、ルイスは救助チームに割り当てられた。
敵はおそらく《無条件勝利》を使用することが考えられるため、ルイスが動いたほうがベスト――というのが理由だ。
そして、そのルイスを補佐するのに最適な人物といえば、言うまでもなくアリシア・カーフェイだ。彼女もまた救助チームに割り当てられた。
そして、レスト・ネスレイアもルイスと行動をともにすることになった。スパイではあったが、彼はSランクの冒険者。ルイスたちの知らない地理を知っているというのが理由だ。
以上の三人が救助チームである。
他のチームと比べるとやや少なめだが、相手が《無条件勝利》を使ってくる以上、力量のある人物でないと戦いについていけない。だから少数精鋭でチームが練り上げられた。
ちなみに、今回はフラムやロアヌ・ヴァニタスは別行動となった。片や共和国人、片や魔獣……大騒ぎになることは目に見えている。だから別のチームで動いてもらうこととなった。
フレミアたちも救助チームに入れたかったが、元軍人のフレミアは城の調査のほうがより適している。そのようにして適材適所を考えた結果、すべての人員がそれぞれのチームに割り振られた。
「しばしの間、お別れだな……」
ルイスが洞窟を出る際、フラムがさりげなく裾を掴んできた。どこか切なそうな表情なのは気のせいだろうか。
ルイスはふっと笑うと、フラムの頭に手を乗せた。
「心配ねぇさ。敵はたしかに強いが、こっちも負けるつもりはない」
「わかってる。わかってはいるが……」
「フラムは城の調査チームだったな。素早いおまえに似合ってると思う。頑張ってくれよ」
「……ああ。そっちもな」
「フフ。我は拠点のチームか。残念であるな」
そう言ったのは前代魔王、ロアヌ・ヴァニタスだ。
ルイスは苦笑いを浮かべながら言う。
「仕方ないだろ。あんたは目立つ。ここでみんなを守ってくれよ」
「やれやれ。魔王が人間を保護するとはな。面白い時代になったものだ」
「まったくだな」
そうして魔王と笑いあっていると、ふいに肩を叩かれた。
ルイスにとって初めての友人……アルトリア・カーフェイだった。
「ルイスよ。覚えているかの? かつて、ともに住民の依頼をこなしていったことを」
「あ、ああ……。覚えてるが……」
「これはワシからの依頼じゃ。必ず生きて帰れ。そして、帝国のみんなを助けておくれ」
「…………」
ルイスは数秒だけ目を閉じると、恩人に向けて、しっかりと頷いた。
「わかった。その依頼……必ず成功させてみせる」
お読みくださいましてありがとうございます。
なかなか返事できませんが、ここまでの所感を感想やレビューなどいただけたら幸いです(ノシ 'ω')ノシ バンバン