おっさん、自分を奮い立たせる
《無条件勝利》を手に入れて、ルイスも達人の域に達したのかもしれない。
すさまじい速度で迫り寄ってくる脅威の存在に、いちはやく気づくことができた。
数秒遅れて、サクヤ・ブラクネスも同質の気配に気づいたようだ。兵士たちを従え、王城の外に出た。ガチャガチャと――武装した兵士の足音が、大きく室内に響きわたる。
「な……なにが起きているのです?」
皇女プリミラが慌てたように周囲をきょろきょろする。いくら剛胆な彼女でも、イレギュラーな事態には弱いらしい。歳相応の困った表情を浮かべている。
「おそらくですが、敵さんは本気でここを潰しにかかっています。皇女様は危ない。お下がりください」
「いけません! 皇族たる者、難事から逃げるわけにはいかな――」
瞬間。
ズドォン!
すさまじい轟音が響きわたり、ルイスは身を竦ませた。
「ああっ!」
「きゃっ!」
アリシアとプリミラは耐えきれなかったようで、悲鳴とともに尻餅をつく。
――なんだ、なにが起きた!
急いで振り返ると、王城の大扉の前に《そいつ》がいた。
巨大だ。
帝国随一を誇る王城にも肉薄する大きさ。ここからは《そいつ》の足部分しか見えないが、とんでもない巨体であることは推察できた。
「ちっ……!」
舌打ちをかまし、ルイスも王城の外に出る。後ろからアリシアとプリミラも続いてくるが、もう彼女らに構っていられる余裕はなかった。あの二人はどんなに拒否してもついてくるだろう。
数秒後。
屋外に出たルイスが改めて《そいつ》の姿を見たとき、思わず大きな声を発しそうになってしまった。
見るも禍々しい漆黒の巨大竜が、大きな口腔のなかで人間を噛み砕いていたからだ。やられたのは例の男兵士のようだ。悲鳴もままならぬまま竜に飲み込まれてしまう。
「ブラッドネス・ドラゴン……」
ルイスはそいつの名を知っていた。むかし読み漁った文献のなかに記されていたのだ。
いわく、Sランクの冒険者でさえひとりでは適わない強敵。
ただ歩くだけで街や自然を破壊し、万象一切を我が身に取り込まんとする邪悪な竜……
「ウオオオオオッ!」
ブラッドネス・ドラゴンが顎を天に突き出し、凶悪な咆哮を発する。
「うおっ……!」
「っつ……!」
すさまじい音圧に、兵士たちが耐えきれず両耳を覆う。そうして動けなくなった彼らを、ブラッドネス・ドラゴンが尻尾で叩きつける。たったその一撃だけで、兵士たちは呆気なく吹き飛ばされ、動かなくなった。
――嘘だろ……?
ルイスはやはり現実を呑み込めない。
ブラッドネス・ドラゴンといえば、二千年前、伝説の勇者に討伐されたはずだ。なぜこんなところに……
「ルイスさん、いくらなんでもこれは……逃げましょう!」
さすがのアリシアも顔面蒼白で弱音を発する。あれほど強気だった皇女プリミラも同意見のようで、アリシアの言葉に強く頷いている。
だが、ルイスは見てしまった。
いいように蹂躙されていく兵士たちを。
帝都の一部が、ブラッドネス・ドラゴンの発した火炎によって燃え尽くされているのを。
――俺はなんのために剣の修行をした。なんのために、クソみてえな人間関係を我慢してまでギルドに居座り続けた。
いまの自分には力がある。ここで逃げていいわけがない。
「アリシアと、皇女様は逃げてください。ここは……俺ひとりでどうにかします」
「えっ!?」
「無茶ですよ!」
女性陣の悲鳴を背に受けながら、ルイスはひとり、ブラッドネス・ドラゴンに突撃していった。
「スキル発動――無条件勝利!」
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