関わるはずのなかったメンバー
それから数分後。
ルイスたちはしばらく、カーフェイ一家の話に聞き入っていた。
皇帝ソロモアの不審な動きに気づき、独自に動いていたこと。
その過程でユーラス共和国の《黒装束》たちが襲ってきて、一度は窮地に陥ったこと。
そしてその後すぐ《闇の壁》が展開され、皮肉にも危険から脱出できたこと。
皇帝ソロモアがユーラス共和国を属国化したときはさすがに驚いたようだ。
いままで帝国の平和を願ってはきたが、このような幸せなど、アルトリアもフレミアも求めていない。暴力の上に成り立つ平和など欲していない。
二人は純粋な帝国人。
このままなにもせず、皇帝にすべてを任せることはたしかに可能だ。
それでも二人は行動に移すことにした。近隣にいる有志を集め、刻一刻と反旗のときを待っていたのだという。
おかげで、この洞窟には数十名の大人たちがいた。冒険者でもなければ軍人でもないので、戦闘力的には覚束ないが、それでも固い信念を持った住民たちだ。
以上がアルトリアの語った話。
今度はルイスがこれまでの経緯を話すこととなった。
神聖共和国党の裏でレストが手を引いていたこと、そのレストすら皇帝ソロモアには出し抜かれたこと。そして《無条件勝利》や勇者エルガーの真実に至るまで、できるだけ簡潔に話してみせた。
その間中、アルトリアもフレミアも夢中で聞き入っていた。時折「なるほど……!」と相づちを打ち、ルイスの話に耳を傾けていた。
そしてすべての話を終えたとき、アルトリアはふうと息を吐いた。
「これで合点がいった。ルイスもアリシアも……さぞ大変じゃったろう。よく頑張った……」
「でも、まだ終わりじゃありませんね。絶宝球ですか……かなり厄介なことになりそうですね……」
さすがのフレミアも思案顔だ。いくら凄腕の元軍人といえど、理を越えた力には敵うまい。なにしろ絶対勝利ときたもんだ。
重くのしかかった沈黙を、前代魔王ロアヌ・ヴァニタスが破った。
「フム。その通りだな。相手は強い。だからこそ――我々が協力しあい、総出で立ち向かう必要があろうよ」
「うん。私もそう思う」
こう言ったのはフラム・アルベーヌだ。
「みんな、それぞれに思うところはあるかもしれない。私だってまだ帝国人は信用できないよ。……でも、ここにいるみんなは仲間だ。いまならそう思える」
――たしかに。
ここに集まっているメンバーは、帝国、共和国、魔物界……それぞれ別の世界で生まれ育った者たちだ。
言うなれば、決して関わるはずのなかった人々である。
それでも……ルイスは思う。
フラムも前代魔王も、いまでは頼れる味方だ。最初はすこし疑ってしまう部分もあったが、この二人がいたからここまで来ることができた。それを自分の石頭が拒否していただけだった。
そんな思索に耽っているうち、ルイスは気づいた。アルトリアがじっとこちらを見つめていることに。
「ど……どうしたよ?」
「ほっほ。驚いておるのじゃよ。初めて会ったときとはまるで雰囲気が変わってての」
「雰囲気……俺が……?」
「うむ」
にっこり笑いながら頷くアルトリア。
「昔のお主は道に迷っておった。自分に自信をなくし、早々にワシらの家から立ち去ろうとしていた。それが見違えるように成長したもんじゃ」
「そ……そうか……?」
「そうですよ!!」
アリシアが横から入り込んできた。
「いままで色々ありましたけど……、みんな、ルイスさんに導かれてここまで来たんです! この戦いはルイスさんが主役ですよ!」
「しゅ、主役って……。そんなわけないだろ」
かぶりを振るルイスに対し、Bランク冒険者のバハートが「いやいや」と話に入ってきた。
「事実、あんたが主役だと思うぜ? みんな、あんたに会えたから変われたんだ。良い意味でな」
「そ、そりゃ買いかぶりすぎだ……」
「自覚ないのかよ。ま、あんたらしいっちゃあんたらしいけどな」
うんうんと頷く一同。
なんだこの空気。
すげー居づらいんですけど。
話題を変えるべく、ルイスはこほんと咳払いをしてフレミアに視線を移した。
「そ、それより、フレミアさんはさっきなにを読んでたんですか? なにか書面を持ってたと思いますが……」
「あ、はい。これですね」
こくりと頷き、その書面を提示してくる。
これは――なにかの地図だろうか。激しく入り組んでいるが……
「隠し通路の見取り図です。ここを突破すれば――帝国の王城へ繋がります」
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