懐かしい場所へ
「ほー。すげえ景観だな」
ルイス・アルゼイドは思わず感嘆の息を吐いた。
帝国から放たれた、闇の可視放射。
かなり重たい攻撃ではあったが、アリシア・カーフェイとの協力により、なんとか弾き返すことに成功した。
それとほぼ同時刻に、なにかが割れるような轟音も聞こえた。
おそらく、レストが壁を突破したのだろう――そう思ってこちらに転移してきたのだが、想像以上の景色が広がっていたわけだ。
すなわち、レストや前代魔王を含めた連合軍と、帝国軍たる《無条件勝利》の使い手……
それら大勢の戦士たちが、互いの出方を窺うように睨み合っていたのである。
まあ、無理からぬことだと思う。
純粋な戦闘技術だけなら連合軍に分があるが、《無条件勝利》にはそれすら跳ね返すくらいの脅威を持つ。一撃でも攻撃を当てられたら、いくら前代魔王やフラムとて看過できぬダメージが通るだろう。
「フム。来たか」
そう声をかけてきたのは前代魔王――ロアヌ・ヴァニタスだ。
彼も帝国側の様子を真剣な目つきで窺っている。かつてレベル3のルイスに敗れたことから、《無条件勝利》の恐ろしさは奴が一番よくわかっていることだろう。
「このまま戦うのはあまり得策ではない。貴様らはここの出自だろう? どこか転移にふさわしい場所はないか?」
「そう……だな……」
顎をさすり、ルイスは思考する。
一瞬だけリッド村はどうかと思ったが、たぶん厳しいだろう。
あの皇帝ソロモアのことだ、こちらと関わりのある場所は先に押さえているに違いない。リッド村に転移したところを、むしろ一気に制圧される可能性すらある。
「アリシア? どうだ、いい場所はないかね?」
「う、うーん。すぐには出てきませんね……」
アリシアも困った顔だ。
まあ、仕方ないだろう。
ここで軽率な判断を下すわけにはいかない。
ならいっそのこと、自分の《絶対勝利》で相手を一気に絶滅させてやるか……。多少の被害は出てしまうかもしれないが……
ルイスがそこまで考えた、そのときだった。
「助けにいくぞ、我が娘よ!」
ふいに聞き覚えのある声が響き渡った。
――かと思うや。
同じく見覚えのある姿が、帝国側の戦士に突っ込んでいった。
「ふんっ!!」
彼は剛胆な剣の一振りを帝国軍に見舞い、吹き飛ばしていく。いくら《無条件勝利》の使い手といえど、急に現れた闖入者には対応しきれず、戦線が見事に崩れていった。
「あ、あれは……」
ルイスは思わず目を見開く。
「ア、アルトリア! なんでここに……!」
「説明は後じゃ! アリシアよ! 昔、リュウを助けた場所――そこに全員を転移させてくれ!」
「あ……」
アリシアも我に返ったように表情を引き締める。
昔リュウを助けた場所といえば、あの懐かしき《霧の大森林》か。アリシアが初めてレベルアップし、古代魔法スキルを得た場所でもある。
あえて遠回しな言い方をしているのは、帝国軍に場所を悟られないためだと思う。地名を直接言ってしまえば、後から大勢の帝国軍が押し寄せるのは想像に難くない。
「アリシアさん……お願いしてもいいですか……?」
「フム。我もさすがにいまの呼びかけではどこかわからぬ」
ミューミと前代魔王が口々にそう言った。二人とも《転移術》は使えるものの、実際の場所を知らないためそれが使えない模様だ。
アルトリアの登場により、帝国軍には若干の隙が生まれている。一斉に転移するならいまが絶好のチャンスだ。
「わかりました。お父さん、みなさん……一気に転移します! いきますよ!」
さらに熱く、感動していただけるような内容に編集し、一巻を発売しております! ぜひお求めくださいませ!
作品紹介ページは下部にリンクがございます。