絶妙なるコンビネーション
世界中に弾けるような金属音が響き渡った。
ルイス・アルゼイド。
レスト・ネスレイア。
二人の命をかけた戦いに、いまこの瞬間だけ、世界が揺れた。
そして。
周囲にいた人々、全員が驚愕した。
二千年もの間、無敵の神話を誇っていた絶宝球の壁が、粉々に砕けていったのだから。
★
「はぁ……はぁ……」
レスト・ネスレイアの体力はとうに限界だった。
絶宝球の尋常ならざる抵抗力に加え、スキル《ステータス・オールマックス》と、右胸の負傷……
この三つが重なれば、いくら最強のSランク冒険者といえど、動けなくなるのが必然。
――ゆえに。
「くそ、あいつを殺せ!」
「疲れてるようだ! いまがチャンスだぞ!!」
壁の向こう側にいた戦士たちを前に、レストは一歩たりとて動くことができなかった。
当然だ。
いくら絶宝球が比肩なき力を持っていたとしても、あの皇帝ソロモアのことだ。
あらゆる事態を想定して、この場に監視員を配置しているだろうことは誰でもわかる。
しかも奴らは全員、《無条件勝利》のスキル持ちだ。見たことのあるオーラを携えている。適当に戦って勝てる連中ではない。
――だが。
「へ、へへへ……」
レストは自身の右胸を抑え、足をガクガクに震わせながら、それでも不敵に笑ってみせた。
「あんたらよう……。あんまりヴァイゼのジジイを馬鹿にしないほうがいいぜ……?」
「な、なに……?」
戦士のひとりが目を見開き、そして――
「か、はっ……!?」
一瞬だけ表情をひきつらせるや、無言で膝から崩れ落ちた。胸部を切り裂かれたようだ。見るに耐えない鮮血が周囲に飛び散る。
「ひ、ひえっ!?」
「なんだ!」
なんだもクソもない。
レストですら視認できないほど高速で動ける人物。
思いつくのはひとりだ。
「やっ!!」
同じくSランク冒険者――フラム・アルベーヌは、近くにいた兵士を次々と切り刻んでいく。相変わらずすさまじいスピードだ。いまのレストでは手も足も出なかろう。
「つ、強い!」
「ふざけんな! 《無条件勝利》使いの俺たちが負けてなるものかァ!!」
そう騒ぎたてる戦士たちだが、フラムとて簡単にはやられない。戦士たちの攻撃を軽々と避け、そして的確な斬撃を浴びせていく。
「私が道を切り開く! ロア、あとは頼んだぞ!!」
「承知した!」
どこか遠くで、前代魔王が返事をした――
と思いきや。
瞬時にして、多くの人々がこの場に姿を現した。
神聖共和国党の面々。
帝国のギルドメンバー。
その他、黒装束の戦士たちなど……
強力な味方たちがこの場に現れた。
「おうおう、ここが帝国かよ。変わったもんだなぁ」
「皇帝ソロモア……。やはり侮れない男だな」
周囲を見渡しながら、バハートとヒュースが口々に言う。
彼らとて長い間ここに住んでいた身だ。そんな故郷が知らぬ間に戦場にされているのだから、驚くのも無理はない。
「あ……あ……。こいつら、なぜここに……?」
帝国の戦士たちが青い表情で後ずさる。
言うまでもない。
前代魔王の転移術を用いた形だ。
ルイスとレストの共闘で壁を破った後、フラムが道を開き、ロアの転移術で一斉にワープする……
これがヴァイゼ大統領の打ち出した策だ。
もちろん簡単なことではない。絶妙なコンビネーションがあってこそ成り立つ作戦だ。そしてヴァイゼは、ルイスら一行が固い信頼で結ばれていることを知っていた。
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