長年対峙してきた二人の剣士は
「…………!」
その瞬間。
ルイスは感じた。
自身に迫りくる、凶悪なまでの圧力を。
通常ありえないほどの甚大な力を。
心なしか、周囲の空間すら若干黒ずんでいる気がする。
ほぼ無意識のうちに、ルイスは腰を落とし、戦闘態勢に入っていた。
――スキル発動。絶対勝利。
自身が銀色のオーラに包まれるのと同時に、前方から一筋の光線が激突してきた。
「うおっ……!!」
思わず呻いてしまう。
ギリギリ太刀で防げたが、とんでもないスピードだった。
人間が認識できる速度をゆうに超えている。
――これが絶宝球の力ってやつか。とんでもねえな……!
信じがたいほど重い威力だ。
《絶対勝利》を発動できていなければ、今頃消し炭になっていたに違いない。
さすがは宝球。
これはやばいぞ……!
「ルイスさんっ!」
ふいに背後から、天使のような女性の声が響きわたる。
と同時に、柔らかな新緑の光がルイスを包み込んだ。
完全回復。これまで何度も世話になった、傷と体力の完全回復だ。
「私も全力でサポートします! 一緒に乗り越えましょう!」
「おうよ!」
絶宝球。
伝承によれば、戦争時、多くの命を奪った禁断の力。
それでも――二人の力を合わせれば、乗り越えられない壁じゃない。かつてはゴブリンにさえ苦戦する二人だったけれど、さまざまな試練を経て、ここまでやってきたのだ。
いける。
俺たち二人なら……!
「いくぞアリシア! 全身全霊、すべての力でもって戦いに当たれ!」
「はいっ!!」
★
『共和国からレスト! 聞こえるか!?』
ふいに脳内に声が流れ込んできて、レスト・ネスレイアは目を見開いた。
――ヴァイゼ大統領の声だ。
魔術師の力を借りて、遠隔から声を飛ばしてきているらしい。
『こちらレスト。どうした』
『帝国から可視放射が放たれた模様! 現在ルイスが応戦中! 至急突撃せよ!』
『了解!』
とうとう始まったか……!
レストはふうと息を吐き、前方に高々とそびえる闇の壁を見上げる。
共和国と帝国の境目に位置する草原地帯――
共和国から国境門を超えた位置に、レストは訪れていた。
ここが《転移》で来ることのできるギリギリの地点だ。いま国境門の向こう側では、ルイスが決死の攻防を繰り広げていることだろう。
そのおかげで、現在は絶宝球の防御力が弱まっているはず。
この隙に突破するのが今回の作戦だ。
「りゃあっ!」
かけ声とともに、レストは壁に太刀を振り回す。
――が。
ガキン! という金属音とともに、レストは後方に吹き飛ばされてしまった。
「ぬうっ……!」
思わず呻いてしまう。
さすがは絶宝球。いくら防御力が下がっているとはいえ、そう簡単に切り抜けられる相手じゃない。
――仕方ねぇな……
レストは瞳を閉じ、自身に眠る力を呼び覚ます。
スキル発動。
――ステータス・オールマックス。
瞬間、ドス黒いオーラが自身に立ちこめるのを感じた。同じく、髪色も禍々しい漆黒へと変化する。
体力の消耗が激しいスキルだが、四の五の言っていられる場合ではない。自分がしくじれば、計画のすべてがパーになる。
「おおおおおおっ!」
雄叫びをあげながら、レストは再び絶宝球へと突撃した。途方もなく巨大な壁へと、太刀を差し向ける。
ガキィィィィン!!
すさまじい轟音が鳴り響いた。自身の太刀から、目覚ましいほどの火花が飛び散る。
「重い……ッ!」
無意識のうちにそう叫んでしまう。
絶宝球も全力でもって対抗してきているようだ。レストを弾き返すべく、重厚な力で押しやってくる。一瞬でも気を抜けば、今度は地の彼方まで吹き飛んでしまいそうだ。
それだけは避けねばなるまい。決して負けるわけにはいかない。
共和国に置いてきた仲間のためにも、ミューミのためにも、そして、俺自身のためにも……
だが――
「うがっ!」
突如、胸部に突き上げるような痛みが発生し、レストは悲鳴をあげた。
ステータス・オールマックス。
その代償は、急激な体力の消耗。
長く使用すればするほど、身体に負担がかかる。ただでさえ右胸を負傷しているのに、絶宝球を相手にするのは危険だと自分でもわかっていた。
でも。
でも、俺は……!
「負けないで! レスト!」
ふいに背後から、聞き覚えのある女性の声が聞こえた。
同時に、ふんわりとした輝きが自身を包み込む。
完全回復。
古代魔法に属するそれを、魔導具を用いて発動する人間といえば、ひとりしかいない。
「ミュ、ミューミ……!」
「なんでもひとりで抱え込まないで! 私がいるから!」
「…………」
思わず黙りこくるレスト。
思えば、どんなときでも彼女がいた。
《無条件勝利》の使い手・ルイスと戦うときでも、彼女は迷いなく同伴してきた。危険であることはわかっていたはずなのに。なのに……
「ミューミ。頼む。おまえがいなきゃ絶宝球には勝てねえ……。背中は……預けていいか」
「もちろんよ。私たち二人が頑張れば、きっと乗り越えられる!」
「ああ……頼んだぜ」
そして。
まったく同時刻。
まったく別の場所で。
『心眼一刀流、一の型、極・疾風!!』
ルイスとレストの声が重なった。
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