自分たちの目標へ向けて
しばしの沈黙が訪れた。
あれほどしつこかったレストも、好きな女性の圧には勝てないということか。いつの間にか《ステータス・オールマックス》も解除し、ただミューミの腕のなかでおとなしくなっている。
「…………」
ルイスは一息つくと、太刀を鞘に収めた。
とりあえずは一件落着と言っていいだろう。
レストを抱きしめながら、ミューミは泣いていた。馬鹿、馬鹿、とずっと呟いている。汗の量も尋常ではない。
危険な戦地とわかっていて、それでもレストを守るために突っ走ってきたその度胸。
お見事というしかあるまい。
戦闘中、ルイスとレストの周囲ではあちこちで衝撃波が舞っていた。いくら彼女がSランク冒険者といえども、それを喰らえば看過できないダメージを負ったはずだろう。
そう。
まるで、あのときのあいつのように……
――と。
「ふふ、この光景、なんだか既視感がありますね」
そう言って歩み寄ってきたのは、相棒の魔術師――アリシア・カーフェイだ。
いつの間にか古代魔法も解除したのか、フラムや前代魔王も後に続いている。
ルイスは乾いた笑みを浮かべながら言った。
「そうだな。いま思えば、あれもだいぶ昔のことか」
「ですね。あのときから……ずいぶん遠いところまで来た気がします」
そのおかげで、ルイスは《無条件勝利》を手に入れ、ここまで来ることができた。
人はひとりでは強くなれない。
それはルイスもそうだったし、天才の戦士たるレストもそうだったのだろう。
そう思えば、かつて自分が憧れていた《Sランク冒険者》は、案外近いところにいたのかもしれない。自分で勝手に相手を美化して、相手を遠ざけていたのかもしれない。
そのSランク冒険者は、後頭部に手をやりながら、へへへと笑った。
「なんだか……みっともねぇとこを見せちまったな」
「気にするな。これからだろう? お互いに」
「はは、これから……か」
レストはふうと息をつくと、再びこちらを見上げてきた。心なしか、さきほどより瞳が澄んでいる。
「ルイスのおっさん。あんたやっぱすげえや。俺もまだまだ若いつもりだけどよ……俺より前向きだもんな」
「はっ、おまえにそんなこと言われるとはな」
「――では、いったん協力体制を組むということでよろしいかな?」
ふいに聞き覚えのある声が聞こえ、ルイスは眉をひそめた。
この声。まさか……!
急いで振り向くと、アルカナが消えた扉の前に、ひとりの人物がいた。他の一般人とは違い、堂々たる威圧感を滲ませている。
歳はルイスと同じくらいか。
灰色に染まった髪は首の高さまで切りそろえられており、顔に刻まれた皺にはなんともいえない力がある。
また眼力も相当に強い。
気の弱い者なら見つめられただけで怖じ気づいてしまうような圧があった。
ルイスは彼を知っている。直接会ったことはないが、書物などで何度も見た顔だ。
つまり、ユーラス共和国の頂点に立つ男――
「大統領、ヴァイゼ・クローディア……」
「ふふ。お初にお目にかかる。ルイス・アルゼイド殿、そしてアリシア・カーフェイ殿」
言いながら、こちらへつかつかと歩み寄ってくる大統領。
レストと違い、彼は精神的にまだまだ元気そうだ。口元には笑みさえ浮かんでいる。
「ヴァイゼ大統領……」
言いながら、フラムがぺこりと頭を下げる。
「ふふ。久しいな、フラム・アルベーヌ。此度の案内、ご苦労であった。そして……」
大統領と魔王の目が合った。
「驚いたよ。前代魔王ロアヌ・ヴァニタス殿。まさかあなたが生きているとは」
「クク。我も驚いておる。貴様、この状況下でソロモアを打倒するつもりだろう? たいした胆力だよ」
「滅相もない。あなたがここまで来ているのに、私だけなにもしないわけにはいくまい」
「そうだな。ここで寝ぼけたことを言っていたら殺しているところだ」
「ふふ。そんなことをすれば、我が兵力でもって魔物界を消滅させるがよろしいかな」
「ククク……」
「ふふふ……」
なんつう洒落にならん会話だ。
ルイスはふうと息をつくと、「どうどう」と言って二人を仲裁した。
「話が進まねえじゃねえかよ。落ち着け」
「おっと。これは失礼した」
まったく悪びれていない顔でそう言うと、ヴァイゼは一同を見渡した。
「あなたがた四人が来れば、ソロモア打倒の希望が見出せるのだ。まずは話を聞いてもらえないかな? ここには彼らもいるぞ」
「彼ら……?」
首をひねるルイスに向けて、ヴァイゼはある方向を手差しした。
「かっかっか。ルイス。久しぶりだな」
「俺たちもここにいるぜ!」
そこには、かつてルイスと敵対し、そして仲間となった者たち――ヒュースを始めとする神聖共和国党の面々や、バハートを始めとする帝国のギルドの連中がいた。
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