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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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かつての自分と若き青年

新作を公開しております。


「片腕をなくした転生勇者は、10000年後の未来でのんびりと道場を開く。」



ぜひお越しください!

 ステータス・オールマックス。


 常軌じょうきを逸したスキルだとは思ったが、なるほど、そんなデメリットがあったか。


 また、数日前……レストと初めて戦ったとき、彼があえてこのスキルを使わなかったのもわかった気がした。


 あのときのレストの目的はあくまで時間稼ぎ。その程度の戦いで、体力を失うわけにはいかなかったのだろう。


 とりあえず、これで勝負あった。


《絶対勝利》を手にしたルイスには、かつてのように体力の心配はない。こちらはまだまだ戦える反面、レストは満身創痍まんしんそうい


 スキルの効果が切れたのか、レストからはすでに漆黒のオーラが消えていた。髪や瞳の色も元に戻っている。あれほど禍々しかった気配も、もう感じ取れない。


 誰が見ても勝敗は明らかだろう。これ以上戦う必要はない。

 そんなことを考えながら、太刀を鞘に収めようとした直後……


「――なに終わろうとしてんだよ、ルイスのおっさん」


「……なに?」


「さっきも言っただろうがよ。人の心配してる暇があったら、自分テメェのことを考えろってな」


 言うなり、レストは再び立ち上がる。

 そしてなんと、あのチートスキル――ステータス・オールマックスを発動しようとするではないか。漆黒のオーラが、再度、彼の周囲に発生する。


「お、おい! それ以上はやめとけ!」


 ルイスは慌てて若者を制止する。


 自分もかつて、急激な体力消耗に苦しんだからわかる。

 レストはきっとスタミナの極限まで戦ったはず。そのうえでさらにスキルを使用するなど、自殺行為以外のなにものでもない。

 それでもレストは、戦闘の構えを取る。


「気にするなって言ってんだろ。俺はまだ――ウッ!」


 胸部にすさまじい痛みを感じたか、彼はその部分に手をあてがう。よくよく見れば、彼の右胸には細い穴が穿たれており、そこからどろどろと血液が垂れてきている。


「馬鹿! 戦えるわけねえだろうがよ!」

 相手が敵であることも忘れ、ルイスは本気で怒鳴った。

「ここで死んだらどうするつもりだ! 本命はあくまで帝国……ソロモア皇帝だろうが!」


「くくく……ははは……」

 なぜだか笑いだすレスト。自身の胸を辛そうに抑え、歯を食いしばりながらも、それだけは変わらない笑顔をこちらに向けた。

「馬鹿はあんただよ……。この状況で……帝国に勝てると思ってんのか……?」


「な、なに……?」


「あんたは知らねェだろうがな……もう大多数の中小国が、帝国側についちまってんだよ。たしかにこっち側には強え戦士がいっぱいいるが……それじゃどうにもならねえほど、戦力差がついてきてる。加えて、あっちにゃ絶宝球ぜつほうきゅうまであるんだぜ?」


「…………」


「無理なんだよ……。ヴァイゼやミューミはまだ諦めてねえみてえが……いまさら頑張っても……もう詰んでんだ……」


 なるほど。

 そういうことか。


 このわずかな期間で、ソロモア皇帝はさらなる力を身につけたらしい。諸外国すべてがソロモアについてしまったのならば、たしかに絶望的な状況という他ないだろう。


 こちらが動ける戦力は、悲しいほどに小さい。悲観的になる気持ちはわからないでもない。


「だから……ここで死のうとしてんのかよ。レスト」


「はっ。どうだかな」

 彼はあくまでも、薄い笑みを絶やさない。

「さっきも言ったように、俺はずっとあんたを倒すために修行してきた。負けるのは正直悔しいが――この戦いがひとつの契機になることは間違いねぇよ」


 似ている、とルイスは思った。


 過去の自分と。

 なにもかもを諦めていた、昔の自分と。


 どんなに知識を溜めても、どんなに修行しても、まったく成長できないまま、ずるずるとEランクを続けてきた過去の自分。


 あのときの俺は生きる目標を失っていた。

 自分なんて枯れたおっさんだから。生きていても意味のない、しょうもない男だから。


「おいどうしたよ。まさか、戦う気をなくしたって言わねえだろうな」


「…………」


「そっちが来なくても……俺が行くぞ……!」


 黙り込むルイスに向けて、レストは再び駆け寄ってくる。


 速い。

 さすがのスピードだ。


 だが、いくらステータス・オールマックスを使っているとはいえ、体力を失った彼にさきほどの脅威度はない。


 突き出された太刀を、ルイスは事もなげに受け止める。


 カキン――と。

 さっきよりも随分と弱々しい、太刀と太刀のぶつかり合う音が聞こえた。


「ぜぇ……ぜぇ……」

 眼前で、レストが激しい呼吸を繰り返している。片腕はいまだに胸部を覆ったままだ。

「おいどうしたよ。戦いやがれ! 勇者の力を見せてみろよ!」


「…………」


 違う。


 たしかにここで彼を倒すのは簡単だが、それはルイスの求めている結末じゃない。


 かつて、勇者エルガーも同じ葛藤を味わったはずだ。


 倒す必要もない敵たちを、倒さなければならない苦しみ。

 激烈なまでの悩みを。


 戦いたくもない戦争で太刀を振るいながら、きっと歯を食いしばっていたに違いない。


 それを思った途端、ルイスは暖かいものに包まれているかのような感触を覚えた。自身をとりまく銀色の煌めきが、いっそう強く、いっそう美しく光度を増す。


 太刀を押し合いながら、ルイスはぽつぽつと話し始めた。


「もう無理、か。そうだよな。この状況じゃ、誰だってそう思うかもしれねえ」


「……なんだって?」


 渋い表情をするレスト。

 彼の向こうに登場した新たな人影をちらっと確認してから、ルイスは続けて言った。


「昔の俺もそうだった。かつての同僚や部下がどんどん出世してるってのに、俺だけがEランクのまま。何度も腐りかけたぜ。おまえのような、凄腕の冒険者を勝手に恨んでいた時期もある」


「…………」


「だから、魔獣が初めて帝都を襲ってきたとき……俺も死のうと思ったんだ。サクヤを増援に行かせて、俺は身代わりになろうとした」


「…………」


「そのとき、実力もねぇのに加勢してきた馬鹿野郎がいてよ。泣きながら言いやがるんだ。絶対に生きて帰る。俺を死なせはしない、ってな」


「…………」


「おまえはどうだ。最近――ずっと自分を責めてきたんじゃねえのか。ソロモアに対してなにもできなかった自分……。守りたい人を守れなかった苦しみ……。たったひとりで、ずっと、抱えていたんじゃねえのか」


「な……な、にを……」

 そのとき、レストの表情に明らかな変化が訪れた。

「俺もそうだったんだよ。ずっと自分を責め続けてた。でも、あの馬鹿野郎は教えてくれたんだ。そうじゃない、あなたはいままでずっと頑張り続けてきた。立派な人なんです……ってな」


「…………」


「見てみろよ、レスト。おまえさんにも、そう思ってくれる大事な人がいるみたいだぜ」


 言うなり、ルイスは優しくレストを後方に押し出す。

 たいして力は入れていないが、たったそれだけで、いまのレストは簡単に仰け反った。


「う、お……」


 そうして倒れかけたレストを。


 同じく帝国のSランク冒険者――ミューミ・セイラーンが優しく抱き止めた。


「な……なんだ。ミューミか……!?」


 レストがぎょっとした表情を浮かべるのをよそに、ミューミはルイスを見て軽く頭を下げた。


「ありがとうございます。私がここに来てたの……気づかれてたみたいですね」


「まあ、な。こいつを止めたかったんだろ?」


「はい……」

 小さく頷くと、ミューミはレストの背中に頭を預けた。

「レストの馬鹿……。なんでもひとりで抱え込むんだから……」


「ば、馬鹿野郎。奥で待ってろって言ってたじゃねえかよ……! もし戦いに巻き込まれたら……!」


「もういいんです。私は、あなたが生きていればいいんです。それだけで……」

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