表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
166/194

二千年前の戦いを

 神速を超える剣撃の応酬。


 ルイスもレストも、自身が出しうるすべてのスピードで剣を打ち込んでいた。


 端から見れば、まさにことわりを超えた者同士の戦い。

 一般人であればまったく目視のかわなぬ戦いを、二人は無言で繰り広げていた。


 心眼一刀流、一の型、極・疾風。


 かつて勇者エルガーの得意とした最強の技を、二人は完璧なまでに使いこなしていた。


 互いの太刀は相手の太刀に弾かれ、受け止められ、ひたすらに金属音だけが響き渡る。


 と。


 ――ガキン!

 ひときわ甲高い金属音が鳴った。両者の太刀が衝突し、押し合うようになった形だ。


「……やるじゃねえか、ルイスのおっさん」

 ギリギリギリと剣を押し続けながら、レストはにやりと笑う。

「体力の消耗がまったく感じられねえ。そのスキル、完全にものにしたようだな?」


「どうだかな。魔王いわく、もっと上はあるようだが」


「へぇ。まだ上があんのか。そりゃすげえや」


 レストはそこでふっと頬を緩める。


 なんだ……?

 唐突にルイスは寒気を覚えた。長らく戦闘に身を置き続けた結果か、本能が危機感を訴えてくる。


 と、その瞬間――


 レストはふいに太刀を片手に持ちかえるや、空いた手をぱっと開く。うっすらと闇色に輝く手から、甚大な魔力が発せられ……


「……ちっ!」


 ルイスは舌打ちとともに後方に飛び退く。


 コンマ一秒続いて、ルイスの元いた位置に、地上から槍が突き出てきた。それも単なる槍ではない。魔法によって果てしなく強化された、血塗られし大槍だ。あれをまともに喰らってしまえば、致命傷は免れないだろう。


「……マジかよ。いまのを避けるとぁな」


 急にぶすっとするレスト。

 ちょっとショックを受けたらしい。


「まぁ、驚くほど発動が早かったからな。普通の奴じゃまず避けられんだろうよ」 


「はは。慰めのつもりかよ」


 言うと、レストは再び片手を前方に突き出した。今度は紅の輝きがルイスの目を射る。


 ――お次は炎属性の魔法か……!


 一般の魔術師であれば、魔法の発動には多少の隙が生じる。その魔法が強力であればあるほど、発動に時間がかかるわけだ。


 つまり、レストが魔法を使おうとしているこの瞬間は、本来ならばチャンスであるはずなのだが――


 ルイスはすっと太刀を鞘に収めると、すうと深呼吸する。

 意識を研ぎ澄まし、乱れた呼吸を整える。


 ――心眼一刀流、無の型、流水。


 かつてブラッドネス・ドラゴンとの死闘で使用した、回避特化の技だ。


 太刀をしまい、無駄な装備をなくす。

 そうすることで、最小限の動きで相手の攻撃を避けることができる。


 ほどなくして、頭上から無数の火炎が降り注いできた。

 例えるならば、炎の雨。

 もうもうに燃えさかる業火の豪雨が、間断なくルイスに襲いかかってくる。


 高威力なうえ、触れるだけで大火傷を負う強烈な魔法――

 これほどの大技をほぼ一瞬で発動させるとは、さすがSランクの名は伊達ではない……!


「…………」


 ルイスは瞳を閉じ、魔法の動きに集中する。

 目で追わずとも、いまのルイスには魔法の動きが直感できる。


 ――ズドォン! ズドォン!――


 轟音を響かせながら吹き乱れる炎の嵐を、ルイスはわずかな動きだけで回避する。一発喰らえばそれだけで看過できぬダメージをもらうだろうが、いまのルイスには微塵の恐怖心もなかった。


 ――ここだ!

 ルイスはかっと目を見開くと、レストへ猛然と疾駆する。


 炎の雨の気配がやんだところに、瞬時にして攻撃を仕掛けたのである。


 もらった!

 ルイスは高速で太刀を振るった――のだが。


 ガキン!!

 金属音とともに、ルイスの太刀は阻まれた。ギリギリ、紙一重のところでレストが太刀を構えたようだ。


「……マジ、かよ。そう、きやがった、か……!」


 苦々しい表情で呻くレストだが、これはルイスとて同じ心境だった。


「や、やるな……。完全に隙をついたはずだが……まさか防ぐとはよ」


 ギリギリギリギリ……

 剣を押し合いながら、両者は互いを睨みつける。


 さすがは二千年も勇者・・対策をしていただけはある。心眼一刀流や《絶対勝利》の動きをまるで熟知しているかのようだ。


 と。


「ぐうっ……!!」


 ふいにレストの表情が激しく歪んだ。片目をぎゅうと閉じ、片手を右胸にあてがう。


 ――胸。

 まさか。

 ある予感を抱いたルイスはかっと目を見開き、掠れ声を発した。


「レスト……、まさか、あのとき撃たれた場所がまだ痛んで……!」


 ――そう。

 数日前の戦闘中に、絶宝玉ぜつほうきゅうから放たれた闇色の可視放射。


 それがレストの胸部を射抜いていたのを思い出す。

 色々あってすっかり忘れていたが、絶宝球ぜつほうきゅうの攻撃をまともに喰らって、無事でいられるはずがない……


「うる、せェな……!」

 それでもレストは太刀を離さない。

「同情なんかすんじゃねえよ……! 俺は、俺はまだ戦える……!」


 突如として。


 レストの周囲を、ドス黒いオーラが包み込み始めた。


 いつもあどけない彼には似つかわしくない、暗黒の輝き。粘着性のありそうなドロドロとした光が、レストに取り込まれていく。


「ルイスのおっさんよ……。あんまり他人のことなんざ心配してる場合じゃねえぞ?」


 胸部をおさえ、苦しそうに呼吸をしながらも、レストはこちらを見て笑う。


「最強スキル《無条件勝利》……。そいつに対抗するにゃ、こっちもそれ相応のモンがなきゃ話にならねえ。二千年もの間、ネスレイア家はただ修行をしてたわけじゃねえんだよ……」


「…………」


「その結果……《無条件勝利》ほどじゃねえにしても……これくらいはできるようになったんだよ!!」


 すると。

 不可思議な音を響かせながら、闇色のオーラが一斉にレストへ集結していく。ありとあらゆる闇を集め、凝縮されていく……


「ちいっ!」


 舌打ちとともに、ルイスは後方に飛び退く。


 この力。

 なんだか尋常でないものを感じる……!


 次の瞬間。

 陽気な冒険者レストは、もうそこにはいなかった。


「いくぞ……ルイス・アルゼイド」


 燦然と紅く輝いていた毛髪は、怖ぞ気を覚えるほどに禍々しい漆黒へ。少年のようにキラキラしていた瞳は、死霊のような黄色く濁った眼球へ。


 まさに信じられぬほどの変貌を遂げていた。


「ステータス、オールマックス……。《無条件勝利》にはちぃと及ばねえが、どうよ、立派なモンだろ?」


 笑いながら発せられるその声は、心なしか低くなっているように感じられた。


「…………」


 だが不思議と、ルイスに恐怖心はなかった。

 これも歳の功か、妙に落ち着いている自分がいる。


「ステータス・オールマックスか……たいしたもんだよ、まったく……」


 言いながら、再び太刀を構えるルイス。

 自身を取り巻く銀色の煌めきが、一層美しく光度を高める。キラキラ……と鈴を鳴らしたような音が響きわたる。


「おまえがどんなに強くなったとしても……俺は負けるわけにゃいかねえ。どんとぶつかってこい、レスト・ネスレイア!!」

 

 

 

 


 


ただいま書籍発売中です!


「感動した」「読んでて元気をもらった」というお声を多数いただいております。


まだ購入されていない方はぜひ、お求めくださいませ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
画像のクリックで作品紹介ページへ飛べます。 さらに熱く、感動できるような作品にブラッシュアップしておりますので、ぜひお求めくださいませ! 必ず損はさせません! i000000
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ