おっさんの進む道
黒装束の二人と別れた後――
「ここだ。ついてきてくれ」
フラムを先頭に、ルイス一行は徒歩を進める。
薄暗く、明かりと呼べる物はなにもない。
非常に狭い一本道を、ルイスたちは無言で進んでいった。ひたすらに続く暗い通路に、いい加減うんざりし始めた頃……
ギィ……と。
前方に二枚扉があったのだろう、フラムが片手で扉を奥方向へ押し出した。
「…………!?」
そしてその先に広がる光景を見たとき、ルイスは心臓が飛び出るほどの衝撃を味わった。
「な……な……」
思わず目を見開き、どでかい声を発してしまう。
「なんじゃこりゃあ!?」
さきほどの仄暗い通路とは打って変わり、かなり派手な場所に出た。
相当な広さである。帝都サクセンドリアの王城――そのエントランスホールにも劣らぬほどの大広間――が目の前に広がっていた。中央部分には謎の突起物が存在し、そこから色彩さまざまな光脈が四方八方に伸びている。それが縦横無尽に散りばめれているため、どこか幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「ふふ。さすがに驚いたかな」
そう言いながら振り向いたフラムも、すこし苦笑いを浮かべている。
「すんごいだろ? そこらじゅうで魔導具が使われてんだよ」
「ま、魔導具……」
「フム。なるほど。たしかにすさまじい力を感じるな」
さしもの前代魔王も、腕を組んで苦笑している。
「これこそが……二千年もの間、ユーラス共和国が絶宝球に抗うために作られた技術なのだろう。その証拠というべきか、この先にいるはずのレスト・ネスレイアどもの気配がまったくわからん」
「た、たしかに……」
無意識のうちに目を瞬かせるルイス。
言われてみれば、この先には凄腕の戦士たちが集っているはずなのに――その気配がまったく感じ取れない。これもまた、魔導具の効果だということか。なるほど、道理で見つからないわけだ。
黙りこくる一同を見渡しながら、フラムはやや切なそうな表情で告げる。
「この隠し部屋はレスト大臣の家系が作り上げたものだ。きたる怨敵――エルガー・クロノイスの後継者。そいつとの対決に備えてな」
「勇者……エルガー……」
そう。
当時の皇帝に《無条件勝利》を与えられ、ユーラス共和国を打ち破ったエルガー・クロノイス。さぞ苦しみながら太刀を振るってきたことだろう。レストの遠き先祖も、勇者の手によって生を終えてしまった。
ユーラス共和国はきっと、再び第二の勇者が現れると推測したのだろう。皇帝によって最強スキルを与えられ、再び悪夢を蘇らせる恐ろしき剣の使い手を。だからこそ、ここまで手の込んだ隠し部屋を作り上げたわけだ。
――おっしゃルイスさん! いっちょ俺とバトルしようぜ!――
数日前、レストに言われた台詞を思い出す。
……バトル。
二千年前の雪辱を晴らすため、徹底的に鍛え上げられた男の闇。
それを垣間見た気がした。
押し黙るルイスに向け、フラムは再度声をかけてくる。
「あんたには言うまでもないだろうが……レスト大臣は相当に強いぞ。加えて、Sランク級の戦士も仲間に入れている可能性がある。それでも……行くんだな?」
――たしかに。
レストはおそらく黒装束どもを仲間に引き入れているだろうから、この先には油断ならない戦士が大勢控えているわけだ。
こちら側も《絶対勝利》や前代魔王がいるとはいえ、気を抜くことはできない。言わば、両者ともにチート的存在だ。
それでも。
ルイスは決意を瞳に称え、しっかりと頷いた。
「当たり前だ。ここまで来て、引き下がるわけにゃいかんだろ」
「私もです。ここで引いたらカーフェイの名が泣きますよ」
「クク。我には聞くまでもなかろうて」
「……ふん。改めて、濃いメンバーだよなこれ」
フラムはまたしても苦笑を浮かべると、ルイスたちに向けて大声を張り上げた。
「なら――もう迷わない。ここから先はさらに危険度が増すぞ。各自、全身全霊で進もう!」