信用の証
黒装束の戦士――
すなわち、以前レスト・ネスレイアが従えていた強者たちだ。みなA~Sランク冒険者に相当する実力を備えており、過去、ルイスたちもおおいに苦戦した。
「…………」
だが、前とはちょっと様子が違う。
レストの洗脳術により、あのときは口を利けていなかったはずだが……いまは術が解かれているのだろうか。
現在の黒装束たちからは明確な意志が感じられた。
「侵入者……? い、いや、違う、のか……?」
互いに顔を合わせる黒装束。
まあ、このメンバーを見れば当惑するのも無理はない。
帝国人ふたり、共和国人ひとり、そして魔王……明らかに異質である。
そんな彼らへ向けて、フラムが一歩近寄った。
「レスト大臣に会いにきた。私たちは協力者だ。そこを通してくれないか」
「あ、ああ……。あんたはたしかSランク冒険者の……うーん……」
そこで黒装束の視線がルイスとアリシアに据えられる。とりわけ前代魔王に対してはかなりびびった反応を示している。
「フフ。そんなに怖がるな。我は優しいぞ? な?」
二タァと不気味に笑う魔王に、ルイスは額をおさえながら言った。
「おまえは黙ってろ……説得力の欠片もない……」
「なんだと。それはなんとも失礼な――」
「俺のほうからもお願いしたい。この状況で帝国の人間なんぞ信用できねえのはわかってる。それでも……頼む」
そう言って深々と頭を下げるルイス。
「おい、無視するn」
「私からもお願いします。帝国人として、皇帝ソロモアの独裁は放っておけません。ですから……」
続けてアリシアも頭を下げる。真に相手のことを思った、心のこもった願いだった。
最後にアルカナが歩み寄る。
「この方たちは私をここまで連れてきてくださいました。一定の信頼はできるものと思います」
「う、うむ。わかった。わかったからそんなに頭を下げないでくれ」
黒装束のひとりが、やりづらそうに後頭部をかいた。
「実はな、ヴァイゼ大統領からも言われてたんだよ。あんた、ルイス・アルゼイドだろ?」
「ん? あ、ああ……そうだが……」
「大統領はあんたらが来る可能性も想定しててな。もし来た場合は通すよう言われてたのさ」
「な……マ、マジかよ……」
思わず素っ頓狂な声を発すルイス。
ヴァイゼ・クローディア。
ソロモア皇帝には読み負けしたもの、さすが凄腕の策略家と呼ばれた男だ。この状況においてもその隻腕は健在ということか。
黒装束は続ける。
「最初はなんでテイコーなんか通さなきゃいけねえのかと思ったが……なるほどな。あんたらなら信用できそうだ」
「そ、そりゃどうも……」
「だが、俺たちもつい最近ここに移動したばっかりでな。かなりバタバタしてんだよ。申し訳ないが案内まではできない。わかってくれ」
まあ、それは仕方なかろう。
ルイスたちを案内することよりも、ここの警備のほうが重要なのは誰でもわかる。
それに――
Sランク冒険者、フラム・アルベーヌがフフと笑って言った。
「案内なら心配いらない。私がちゃんと覚えてるさ」
「……ああ。あんたがいりゃ大丈夫だな」
こくりと頷く黒装束。
いわく、隠し部屋に到着するまではまだまだ距離があるようで、道中には罠であったり行き止まりであったり、かなり面倒な細工がなされているらしい。まあ、この隠し通路が作られた経緯を考えればそれも当然の話である。
ルイスはこくりと頷くと、フラムを見つめて言った。
「フラム。申し訳ないが、引き続き案内は頼めるな?」
「おう。任せておくがいいさ」
がつんと両の拳をぶつけるフラム。
一同が気合いを入れ直した、その片隅で……
「――みんなして我を無視しおってからに……」
ひとりだけいじける前代魔王だった。