強すぎる四人
ユーラス共和国におけるSランク冒険者、フラム・アルベーヌ。
さすがと言うべきか、彼女は迷う素振りもなく歩みを進めていく。ほとんどの建物は破壊され、目印などはないはずだが、身体がなんとなく覚えているのだという。Sランクの情報網は伊達ではない。
以前通った覚えのあるスラム街を、ルイスたちはひたすら突き進んでいた。あのときはそこらじゅうで浮浪者が寝そべっていたが、いまは見る影もない。
代わりに、スラムの住人が苦心して作り上げたであろう小さな売場や品物などがあちこちに散らばっている。
――こんなところにまで帝国の手が及んでいるとは。
前方を歩くフラムの横顔に、明らかな怒りの感情が見て取れた。
と。
「な、なんだ!?」
「ルイス・アルゼイドどもだ! 始末しろ!!」
見つかったようだ。
何人かの兵士どもが、こちらに必死の形相で走り寄ってくる。
うち数名は湯気のようなオーラに包まれており、他の兵士とは段違いな雰囲気を放っている。確認するまでもなく、《無条件勝利》の使用者だろう。
「――ッ!!」
そんな連中へ向けて、フラムは目にも止まらぬスピードで突っ込んでいく。ルイスが瞬きを終えた頃には、フラムはもう敵陣地の懐に入り込んでいた。
「え……」
「私たちを侮るなよ。恐れるべきはルイスだけじゃない」
ぽかんと口を開ける兵士に向けて、フラムは短剣を差し向ける。兵士が慌てて振り下ろした剣を当然のごとくかわしながら、敵の首筋を明確に捉える。
ざすっ、と。
血飛沫がフラムの周囲に舞った。
「かはっ……!!」
醜く呻く兵士。
さすがにこれはたまったもんじゃないだろう。いくら《無条件勝利》が最強スキルといえど、熟練度が低い状態で突っ立っているだけではどうしようもない。それはルイスが一番よくわかっていることだ。
「ば、馬鹿な……ッ!」
小さい悲鳴とともに、その兵士は崩れ落ちていく。
「は、早い……!!」
ルイスの背後で、アリシアが小声で呟いた。
そう。
ロアヌ・ヴァニタスの修行で強くなったのは、ルイスやアリシアだけではない。
フラム・アルベーヌもまた、ともに強くなった同志だ。彼女に派手なスキルはないが、素のステータスは以前と比べ物にならないほどに伸びている。
とりわけ敏捷度はさらに磨きがかかったようで、あのロアヌ・ヴァニタスすらも手を焼いていたのを覚えている。
そんな彼女が、熟練度の低い《無条件勝利》使いなどに負けるはずがない。
「くそっ……!」
「なんだこの女、速すぎるぞ……!!」
兵士たちはもう完全に恐慌をきたしたようだ。青い顔で喚き始めている。肝心の《無条件勝利》がまったく使いこなせていない。
「――さてさて、盛り上がっているところ申し訳ないが……」
そんな連中へ向けて、ロアヌ・ヴァニタスが怖い笑みを浮かべながら歩み寄っていく。
「げっ、ま、魔王!?」
「なんでこんなところに!?」
「あまり騒がれて増援を呼ばれても厄介だからな。悪いが我の言葉に従ってもらおう」
「え……」
兵士が目を見開いた、その瞬間。
前代魔王の周囲を、妖しげな紫のオーラが包み込んだ。やはり魔物界の王、なんとも禍々しい魔力である。
ロアヌ・ヴァニタスはパチンと指を鳴らすと、心なしか残響を引いた声を発する。
「――貴様たちはなにも見ていないし、なにも聞いていない。これまで通り、普通に街を巡回せよ。いいな?」
「あ……」
「うう……」
とろん、と。
兵士たちの目から理性が消えた。
がたりと肩を落とし、全身の筋肉を弛緩させたかのようにうつむく。
「俺たち……なにもミテナイ……キイテナイ……」
「うむ。もし他の者どもがここらに来そうになったら、異常なしと伝えておけ。いいな?」
「ワカリマシタ……。パパ……」
「クク。それでよし。さあ、仕事に戻るがよい」
「ハイ……」
そのまま変な歩き方でいずこへと歩き去っていく。完全な催眠状態にかかっているようだ。
兵士たちが姿を消したあと、前代魔王はふうと息をつく。
「よし。うまくいったようだな……って、ん? どうした、貴様ら」
「いや、どうしたって……」
ルイスを始めとする人間勢が、ジト目で魔王を見やっていた。
「改めて、おまえさんとはもう戦いたくないと思ったよ。随分とエグいもんだ」
「フフ。なにを言うか。戦う前から勝利する貴様に言われたくないな」
「あ、あはは……」
引きつった笑みを浮かべるアリシアだった。
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「危険すぎて学園を追い出された魔術師、辺境でなんか結果的に世界を救っていた」




