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おっさんは慢心しないようにします

「皇女様、ただいまお助けに……って、あれ?」


 兵士のひとりが、入り口で唖然と立ち尽くした。サクヤ・ブラクネス――さっき増援を呼びにいった女兵士だ。


 彼女はルイスと魔獣の死骸とで視線をさまよわせると、かすれるような声を発する。


「これはいったい……なにが……」


 サクヤは手練れだ。一目見ただけで、現在の状況をすぐに把握した。


 ――ルイスの太刀に、魔獣の血液がこびりついている。

 ――そしてまた、首を切断されている魔獣もいる。奴らは剣で殺されたわけだ。


 それらの情報を総合的に判断すると、ルイスがすべての魔獣を蹴散らしたのだと思われる。


 だが。

 この場にいる者はみんな知っていた。

 ルイスが最弱の冒険者であることを。

 彼は万年Eランクであり、魔獣の群れを撃退できるはずもないことを。


 だからこそ、すべての兵士が黙りこくっていた。この状況はいったいなんなのだ――と。


「来てくださいましたか、みなさま」

 沈黙を破ったのはプリミラ皇女だった。

「見ての通り、城の危機は彼――ルイス・アルゼイドさんが解決してくださいました。どうかご安心を」


 瞬間、兵士らがどよめきを発した。互いに顔を見合わせ、目を見開き、

「嘘だろ……」

「ありえねえ……」

 といった呟きを漏らす。


「お言葉ですが、皇女様」


 そう言って一歩前に進み出たのは、ひとりの兵士――さきほどルイスとアリシアを小馬鹿にした男兵士だ。

「その者どもは下級の冒険者です。おそらくなにか汚い手を使ったのでしょう。騙されてはなりませぬ」


「なんですって……?」


 プリミラ皇女はそこでルイスをはたと見つめた。


「…………」


 ルイスはなにも言わなかった。


 ただ、いつも通りに。

 感情を殺し、プライドを捨て、状況を見守るだけだ。


 立場の弱い者がなにを言ったところで、なにも信用されない。それはこれまでの人生で痛いほどよくわかっていたから。


「なにを……!」


 アリシアが激怒したように叫びだそうとする。

 そんな彼女の肩を、ルイスは優しく叩いた。振り向く彼女に、ゆっくりと首を横に振ってみせる。


「……なるほど、そういうことですか」

 プリミラ皇女が悟ったように呟いた。

「ルイスさん、あなたがギルドを辞めたい理由が……わかった気がします」


「申し訳ありませんな。こういうことですから」


「ふう……」


 プリミラはそこで呆れたようにため息を吐くと、男兵士をきっと睨みつけた。


「大変不敬な方ですわね。私が間違ったことを言ったとでも?」


「へっ?」

 男兵士が戸惑ったように後退する。


「この場を治めたのはルイスさんです。それに間違いはありません」


「し、しかし、さっきも言ったようにそいつはEランクで……」


「――それ以上馬鹿なことを言いましたら、ギルドから追い出しますわよ?」



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