ルイスのアイディア
瓦礫が多く積まれた場所。
ルイスたちは一時、そこに身を隠すことにした。どうやらここは首都の外れのようで、兵士はたいして見当たらない。すこしくらいは時間が稼げるだろう。
全員が地面に腰を落ち着けたところで、ロアヌ・ヴァニタスが
「さて」
と切り出した。
「ユーラスの住民よ。申し訳ないが、その赤子は眠らせても構わないか? また騒がれると困るからな」
「え……」
目をぱちくりする女性。
ここに来るまでの道中ですこしだけ会話を交わしたが、名前をアルカナと言うらしかった。
「なに。すこしの間睡眠させるだけだ。後遺症などは残らんから、安心するがよい」
「はい。そうですね……。それがいいと思います」
「ふむ。申し訳ないな」
ロアヌ・ヴァニタスは手をかざして謝る素振りを取ったあと、その手を緑色に輝かせた。
すとん、と。
魔王の魔法にかかった赤ん坊が、ゆっくりと眠りに落ちる。正直あまり良い光景ではないが、この場合に至っては仕方ないだろう。
ルイスは周囲を見渡し、兵士がいないのを確認してから、小声で言った。
「そんで、アルカナさん……だっけか。あんた、どこに向かおうとしてたんだ? ただ逃げ回ってるようには見えなかったが」
「えっと……」
アルカナは不安そうにフラムを見やる。
そんな彼女に向け、フラムはにっこり笑ってみせた。
「気にしなくていい。こいつらは信用できる。それは私が保証しよう」
「わ、わかりました。それなら……」
アルカナはすっと息を吸い込むと、改めてルイスたちを見回した。
「フラムさんはご存知だと思いますが、ユーラス首都の地下に、大きな隠し部屋が存在するのです。そこで……ヴァイゼ大統領やレスト大臣が、逆転の機会を窺っているという話を聞いたんです」
「そ、そうなのか……」
大声を発しそうになるのをなんとかこらえるルイス。
「じゃあ、あんたはそこに向かおうとしてたってわけだな?」
「はい。そこには多くの兵士もいるようですし、一番安全なところかと思って……」
「そういうことか……」
レスト・ネスレイア。
彼の手腕を思えば、たしかにその隠し部屋とやらが一番安全といえるだろう。むろん、AからSランク級の戦士もいるに違いない。
「なるほどですね。その情報はたぶん帝国にも出回っていませんから、ソロモア皇帝が手を焼くのも無理はありません」
アリシアもうんうんと頷いている。
「でも……大丈夫なんですか? その隠し部屋に着くまでに、何人の兵士に見つかることやら……」
「…………」
そこでアルカナは顔を伏せてしまう。
「仕方ないんです。……だって、私たちにはもう、安心できる場所なんて……!!」
アルカナの声がわずかに震えだした。感情が抑えきれなくなったのか、そのまま顔を両手で覆ってしまう。
「なんで……なんですか。私たちは普通に暮らしてただけなのに……なのに……!!」
その言葉に感じ入るところがあったのか、フラムも同様に顔を逸らしてしまう。
故郷を侵略され、無事に明日が迎えられるかもわからない状況。その辛さは想像に難くない。
「…………」
ルイスはしばらく黙考したあと、改めてアルカナを見やった。
「なら、俺たちがそこまで護衛するよ。そんで――レストたちにも会いにいく」
「ほう……?」
ロアヌ・ヴァニタスがニヤリと片頬をあげる。
「まさかとは思うが、貴様……?」
「ああ。そのまさかだ。レストたちに協力を要請する」
「ええっ……!?」
大きく目を見開くアリシア。
「と、とんでもないアイディアですね……! でも、いいかもしれません……!」
レスト・ネスレイア。
二千年前の悔いを晴らすため、修行に明け暮れてきた男。
信用してもらえるかはわからないが、もし共闘を組めれば――この上なく頼りになる戦士である。
「ふふ。相変わらずとんでもないな。あんたたちは」
フラムもさすがに苦笑いを浮かべていた。
「私としても助かるよ。この状況を放っておくわけにはいかないからな」
そしておもむろに立ち上がると、ルイスたちに向けて輝く瞳を向けた。
「それなら――ついてきてほしい。隠し部屋までの道のりは、たぶん私が一番詳しい」




