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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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奇想天外な四人

 ★


 女性はひどく怯えていた。瞳孔どうこうが開ききっているし、全身をカタカタと震わせている。


 それでも。

 彼女は、腕に抱いている赤ん坊だけは手放すまいと、懸命に守ろうとしていた。この子だけは必ず守ってみせる――そんな強い意志を感じさせる瞳だった。


 素晴らしい、とルイスは思う。

 帝国人であろうと共和国人であろうと関係ない。自分たちはわかりあえるはずなのだ。拒絶さえしなければ。


 と同時に、狂わんばかりの怒りも込み上げてくる。

 あまりに――ひどい。


「おい……おまえら。これはどういうつもりだ」


 ルイスはぎろりと、先ほど自身を殴りかかろうとした男を睨みつける。


 男は一瞬びくっとしたように背筋を伸ばしたが、すぐにヘラヘラ笑いを浮かべた。


「なにって……見てわかんだろ。仕返しだよ」


「仕返し……だと……」


「アンタだって知ってるだろうよ。いままで、帝国がどれほど共和国から迫害を受けてきたか。俺たちはずっと耐えてきたんだ」


「…………」


 たしかに。

 それはルイスも痛いほどよくわかっている。


 神聖共和国党しんせいきょうわこくとうを始めとする、過激派組織の破壊活動。

 レスト・ネスレイアを中心とする工作活動。

 それらにより、帝国はたしかに看過できぬ被害を負っただろう。死傷者も多く出ている。


 けれど。

 このように、やって、やり返して――これが、皇帝の言う平和な世界なのか。


 これが、勇者エルガー・クロノイスの求めていた世界なのか。


 違う。こんなものは……!


 と。


「隙ありィ!」


「…………!」


 男が不意をついて再び殴りかかってくる。《無条件勝利》は使えないのか、たいしたスピードではないが、それでもそこそこのやり手なのだろう。周囲にすこしだけ突風が舞う。


 だが。


《絶対勝利》を使用しているルイスには、スローモーションにしか感じられない。


 ルイスは急いで女性を抱えると、そのまま軽々とジャンプし、男の後方へと飛び移る。この間、一秒もかかっていない。


 男が完全に拳を振り切った頃には、ルイスは奴の背後に回り込んでいた。


「あ……れ……?」


 男がそう呟いた、次の瞬間。


 ――ザシュッ!!

 男に無数の切り傷が発生する。


 勢いよく鮮血が吹き出し、周囲を赤一色に染め上げる。

 身体の各所を無惨に切り刻まれた男は、ガタガタと膝を震わせながら、掠れた声を発する。


「な……に……?」


「同じ帝国出身だ。殺しまではしないでやるよ。だが――その身体じゃ、もう永遠に戦うことぁできねえだろうな」


「嘘……だろ……。おまえ、いつ……」


 男の虚ろな視線は、ルイスの手元にひたと据えられている。太刀を握ってもいないのに、どうやって攻撃したのか――とでも言いたげだ。


「おまえに教える必要はないな。もう寝てろ」


「ぐ……くっそぉ……」


 そのままバタリと崩れ落ち、びくりとも動かなくなる。たった一撃でノックアウトだ。


「あ……あの……」


「ん?」


 ふと、ルイスの腕のなかの女性が見上げてくる。心なしか顔が紅潮していた。


「た、助けていただいてありがとうございます……。あの……テイ――帝国の方ですよね?」


「ああ。申し訳ねぇな。うちの皇帝がよからぬことを考えてるようでよ」


「…………」


「心配すんな。あんたは絶対に守ってみせる。だから安心しろ」


「で……でも、あなた……帝国人なのに……」


 そこまで言いかけたところで、女性は感情の沸点に到達したようだ。目元に涙を浮かべ、そのまま泣いてしまう。


「ルイスさん、戦場でも口説いてるんですか?」

「本当によくないと思うぞ、そういうの」

「クク、良いものを見させてもらったよ」


 と。

 アリシア、フラム、ロアヌ・ヴァニタスが冷やかしとともに歩み寄ってきた。今回は彼女らの転移が遅れたわけではなく、単にルイスの《絶対勝利》の動きが早かっただけだ。


 ルイスは女性を地面に下ろすと、呆れ顔を仲間たちに向けた。


「この状況でなに言ってやがんだよ。真面目にやれ」


「ふんだ。私だって真面目ですもーん」


 なぜだか怒ったように顔をそむけるアリシア。

 これは非常に面倒くさい。


「あれ……あ、あなたは……」


 涙を浮かべながら、女性は大きく目を見開いた。その視線は共和国でのSランク冒険者――フラムに向けられている。


 さすがはSランク冒険者様、一般人からの認知度も高いようだ。


「フラム・アルベーヌさんですよね? どうして、あなたが……」


「ま、色々あってな。こいつらとともに行動してるのさ」


「え……。で、でも、そこにいるのは……」


「フ。前代魔王のロアヌ・ヴァニタスと申す。ロアちゃんと呼んでくれ」


 そのままウインクする魔王。

 不気味である。


「ま、魔王……!? ロアちゃんって……」


 なにがわからないと言ったようすで、女性は頭をクラクラさせた。


 ――ま、当然そうなるよな。

 ルイスはこほんと咳払いすると、無理やり話題を切り替えた。


「ここじゃ敵に見つかる恐れがある。どっかに隠れる場所ないかね? 積もる話はそこでしようや」



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