三人の仲間とともに
魔王城へは、さほど苦労することなく到着した。
なにしろロアヌ・ヴァニタスの転移術があるのだ。時間があればのんびり魔物界を散策してもいいが、いまはそんな猶予はない。短縮できるところは短縮して、ルイスたちはユーラス共和国へと急いだ。
途中、還らぬ者となった現代魔王が仰向けになっているのが見えた。目を大きく見開き、最期までなにが起きているのかわからなかったように思える。さぞ……無念であったろう。
「ガーラス……」
思うところがあるのか、ロアヌ・ヴァニタスが遺体の前で立ち尽くす。
「我が不在の間……よくぞ世界を守ってくれた」
そう呟くロアヌ・ヴァニタスの姿は、帝国であれほど恐れられていた魔王のイメージとはほど遠い。
自身の藍色マントをほどくと、亡骸にゆっくりと被せた。
そんなロアヌ・ヴァニタスの隣へ、ルイスはゆっくりと並ぶ。
「そうか……おまえさんがいない間は、この……ガーラス? に魔王をやってもらってたんだっけか」
「ああ。実力的にはやや不安だったが、こうするしかなかった……」
たしかに、とルイスは思う。
ロアが姿をくらますことでしか、帝国の侵攻を止めることはできなかったのだろう。話を聞く限りだと、二千年前の皇帝もかなりの野心家だ。
すべては、二千年後のいま――皇帝ソロモア・エル・アウセレーゼの野望を阻止するために。
「ガーラスはよくやってくれたさ。あとは……我らがケリをつける番だな」
「大丈夫ですよ、ロアちゃん」
暗い声で呟くロアヌ・ヴァニタスに、アリシアがいつもの朗らかな笑みを浮かべる。
「世界を救うなんて、正直私にはおこがましいですけど……それでも、ここまでやってこられたんです。元々、《圏外》ランクの私がですよ?」
「…………」
「ですから大丈夫です。どんなに大変なことでも、みんないれば乗り越えられます。私はそれをルイスさんから教わりました」
「フフ……まさか。これは思いも寄らぬ事態だな」
アリシアの臭い励ましに、ロアヌ・ヴァニタスが苦い笑みを発した。
「魔王が人間に慰められる日が来ようとは。歴史上、初めてのことだ」
「う……こ、これは誰かさんの影響かと」
「だなぁ。私も誰かさんのせいだと思うぞ」
フラムとアリシアが、チラチラとルイスを見ては変な笑い声をあげている。
本当に緊張感のない奴らだ。
「んー、こほん」
ルイスは無理やり咳払いをかますと、前代魔王に向き直る。
「ロア。改めて聞こう。俺たちとともに……戦ってくれるんだな?」
「ふむ。当然だ。二千年前の借りを返さんとな」
魔王と共闘する。
まさに思いもよらない展開だ。
だがきっと、ロアヌ・ヴァニタスなら信用してもいいだろう。これまでのやり取りで、魔王の性格はなんとなく伝わってきた。
「フラム。ユーラス共和国の地理はおまえが一番詳しい。案内を……頼めるな?」
「おう。任せておけ」
パンパンと自身の二の腕を叩くフラム。敏捷度においては彼女が一番高いので、今後も切り込みは任せることになるだろう。
最後にルイスは、長年付き添ってきた相棒に目を向けた。
「アリシア……。特におまえに言うことはない。いままで通り、全身全霊、すべての力でもって戦いに臨むぞ」
「はい! 背中はお任せください!」
最初は頼りなく聞こえたその台詞も、いまなら不思議な重みが感じられた。これまでの旅で、彼女も間違いなく成長してきたと思う。
――さて。
ルイスはくるりと振り向くと、一際大きい二本の柱を見やった。
漆黒に塗れるその柱の間には、うっすらとした靄が漂っている。前代魔王によれば、あれをくぐることで共和国に転移できるらしい。
帝国に制圧されたユーラス共和国。
間違いなく連戦となるだろう。
ルイスはぐっと気を引き締め、その靄に歩を進めていくのだった。