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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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最底辺のおっさんだったから

「…………」


 ルイスは小さく深呼吸すると、もう一度、自身を見渡す。


 なんとも不思議な感覚だ。

 驚くほどに身体が軽い。

 無条件勝利とは違い、重くのしかかる疲労も感じない。


 まるで、自身と世界そのものが一体となったような……奇妙な感慨だけがある。


「フフ。修行の甲斐があったというものだな」

「むー。ルイスさんだけずるいですぅ」

「駄々こねてる場合じゃないぞアリシア」


 見れば、遅れて転移してきたアリシアたちが、新緑の光に包まれながら次々と姿を現しているところだった。


「……はぁ」


 思わずため息をつくルイス。

 戦場だというのに緊張感のない奴らだ。いや、昔からそうか。


「……魔王よ。あんたのおかげでだいぶ強くなったみてえだ」


「そうか。貴様にはまだまだ上は残されていると思うが……緊急事態だ、仕方あるまい」


 千体ものゾンネーガ・アッフ。

 そいつらを倒したことで、かつてないほどにステータスが上昇した。

 と同時に、《無条件勝利》の熟練度がグングン伸びていき――ついに、このスキルは進化を遂げた。


 絶対勝利。

 絶宝球そのものの力に、近づきつつあるということだ。


「な……なぜだ!」


 突如、甲高い絶叫が聞こえた。

 フレド村の村長――ロータスだ。


 地面に突っ伏しており、動くことはできていないようだが、かろうじて意識だけは残っているようだ。さすがは魔王が認めるくらいの実力者ということか。


「なぜ帝国に刃向かう!? 貴様は帝国人だろ! その力で帝国に協力すれば、盤石な人生を築けるだろうが!!」


「…………そうだな。そう思ったこともある」


 けれど。

 ルイスはこれまで、何度も見てきたのだ。


 帝国人を《テイコー》と蔑み、長期的に差別を行ってきた共和国の住民たち。彼らは決まって、ルイスらに白い目を向けてきた。理不尽な暴力を振るわれたこともある。


 それでも。


 フラムをはじめ、わかりあえる人もいた。ルイスが《テイコー》とわかってもなお、手を差し伸べてくれる人たちがいた。


 アリシアやアルトリアだってそうだ。

 ルイスが《不動のE》だとわかっていて、それでも優しく接してくれた。もう自分なんて生きている価値もないと思っていたのに、そんなことはないと彼らは言ってくれた。


 だからこそ、いまのルイスがいる。

 だからこそ、帝国の危機を救うことができたと思う。


「……差別なんてよ、意味ねえんだよ」


「…………んあ?」


 うつ伏せたまま、ロータスがわけわからないといった声を発す。


「俺はずっと自分の殻に閉じこもってるだけのおっさんだった。みんなから迫害されて、蔑まれて――みっともねえおっさんだったのによ。それでも、こんな俺を尊敬してくれる奴がいたんだ」


「…………」


「そのおかげで俺ゃ救われたんだ。どんな状況でも、自分を信じてくれる人がいる――それだけでな」


「…………」


「世界を救うなんて、大それたことは考えちゃいねえさ。俺は、同じように苦しんでいる人たちを助けるために……今度は俺が誰かを救えるように……この剣を振るうまでさ」


 そのとき、ルイスは脇目でたしかに見た。

 背後でうつむいているトカゲ型の魔獣――バースが、驚いたようにこちらを見上げているのを。


「お……愚かな」

 まだ余力があるのか、ロータスが続けて言う。

「この状況で、共和国と魔物界に味方するというのか。正気じゃない……」


「ふん。俺だって信じられんさ。どっかの家族の影響かねぇ」


 言いながらアリシアをちら見すると、アリシアが「え、私ですか?」というような顔をした。


「馬鹿者が……そ、そんなこと、できるわけが……ない……」


 そこまででロータスの声は止まった。もう息絶えたようだ。念のためざっと他の人間たちも確認するが、意識のある者は残っていない。


「ロータス……たわけ者が……」


 前代魔王が小さく呟くのが聞こえた。






「さて、と……」

 ルイスは《絶対勝利》を解除すると、改めてアリシアたちを見渡す。

「これからどうするよ? こりゃ、もう修行どころじゃねえだろ」


「そうですね。私もそう思います……」

 こくりと頷くアリシア。

「ソロモア皇帝はかなり手際が良いそうで……私たちがモタモタしていると、そのぶん、多くの犠牲が出るかと……」


「ああ……」


 それとまったく同様のことをルイスも考えていた。

 ルイスたちが異次元に行っている間、今回のようにまた刺客が襲撃してきたら……今度は助けに来られるかわからない。今回だって犠牲者が出なかったわけではないのだ。


 ルイスたちが黙りこくっていると、前代魔王がその静けさを破る。


「ふむ。ならば、もうユーラス共和国に戻ってもいい頃合いだと思うぞ? ちゃんと実力もついたしな」


「そ、そうか……」


 魔物界からの離脱。

 ちょっと呆気ない気もするが、ここに長居する理由もない。とっとと共和国に戻るのが吉だろう。


 ルイスが内心でそう決断した瞬間、フラムが口を開く。


「な、なあロア。あんたも来るのか? 私たちと」


「む? なにを言ってる。愚問であろうよ」

 口の片端部分をにやりと吊り上げるロアヌ・ヴァニタス。

「二千年前の決着をつけるときだ。我もともに行動しよう」


「は、はは……。マジか……」


 引きつった笑みを浮かべるフラム。


 帝国人と、共和国人、そして魔王……

 なんつー異色の組み合わせだ。

 いや、だからこそここまで来られたのかもしれないが。


「よし、ならさっさと魔王城へ……」


 ルイスがそう言いかけた瞬間、


「ちょ、ちょっと待て!」

 いきなり呼び止めてくる者がいた。

「お、俺も一緒に行かせてくれないか!」


 バースだった。


 



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