おっさんの修行の成果 2
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ルイス・アルゼイドは、改めて、フレド村の様子を確認する。
あちこちで魔獣の死体が見て取れた。
身体が無惨に引きちぎられていたり、建物がほとんど崩壊していたり……まさに惨憺たるありさまだった。
ひとつ特徴を挙げるとすれば、人間側に苦戦している様子がまったく見られないことだ。人間の遺体は全然見あたらないし、そもそも傷を負っている者さえいない。
一方的な虐殺とでもいうべき光景だった。
そして。
「ルイス・アルゼイド……! やっと姿を現したな!」
そう言いながら剣を構える人間には、既視感のあるオーラが立ち上っている。
そう。
圧倒的な熱量により、もうもうとこみ上げてくる湯気。この世の理を超えた、絶対的なる力……
《無条件勝利》の使用者である。
見れば、他の人間たちにも同様のオーラが迸っている。敵側の正確な規模は不明だが、ざっと百人は超えている。
「ちっ……マジかよ……」
小さく舌打ちするルイス。
皇帝の野郎、絶宝球の力を大勢の人間たちに譲渡したようだ。
これほどの《無条件勝利》使いに攻められては、現代魔王が敗れるのも無理はない……
「な、なんだおまえは!? 邪魔だ、どけ!」
トカゲ型の魔獣――バースが、この後に及んでも突っかかってくる。あのままでは間違いなく殺られていたのに、相変わらずとんでもない威勢だ。
ルイスは後頭部をさすりつつ、苦笑を浮かべる。
「そうは言ってもな。きついだろ。おまえさんだけであいつらを倒す気かよ」
「当然だ。この俺が人間なぞに負けてたまるものか!!」
「……と言う割には結構ビビっていたように見えたが」
「うぐ……や、やかましい! 気のせいだ!」
ぐっと喉を詰まらせるバース。
「まあまあ、そう気張りなさんな。――あんな奴ら、屁でもねえからよ」
「なに……?」
ぎょっと目を見開くバース。
そんな彼をよそに、ルイスは人間たちに歩み寄っていく。警戒だけは怠らず、太刀の柄に手を添えながら。
気づけば、ルイスの眼前には五十人ほどの人間が立ちふさがっていた。みなそれぞれの武器を携え、ルイスの動きに集中している。こいつらの狙いがルイスであることは間違いなさそうだ。
「観念するんだな、ルイス・アルゼイド」
うちひとりの人間が、ヘラヘラ笑いを浮かべる。
「貴様が《無条件勝利》を使えることは知っている。だが、ここには同じスキルの使い手が何人もいるのだ。さすがに勝ち目あるまい?」
「さあて。そりゃどうかね」
「あ……?」
怪訝そうに眉をひそめる人間。
他の人間たちも、ルイスに注意を向けてはいるものの、ほぼ勝利を確信したように表情を緩めている。
そりゃあ《無条件勝利》の使い手が何人もいるのだ。負ける道理はないだろう。
だが――その傲りが、命取りだ。
――スキル発動。《絶対勝利》。
ルイスが小さく呟いた、その瞬間。
銀灰色の煌めきが、ルイスを包み込む。夜空に浮かぶ星々のごとく、彼のまわりを小さな光点が乱舞する。キラキラキラ……と金粒の流れるような魅惑的な音が彼から発せられる。
「…………」
ルイスは視線を落とし、自身の両手を何度も握ったり開いたりした。
――軽い。
かつてさんざん悩まされてきた《無条件勝利》の疲労感など、いまはもうない。《絶対勝利》の力が完全に身体に馴染んでいる気がする。
そう。
これが、異次元での修行で手に入れた、新たなる境地だった。
「お、おい……なんだよ……それは……」
口をパクパクさせる人間へ、ルイスはゆっくりと視線を向ける。
「絶対勝利……おまえらのスキルの、完全上位互換ってやつだ」
「な、なんだと……?」
「――おまえたちは邪魔だ。とっととくたばれ」
ルイスが戦闘の構えを取った、そのとき。
「がはっ!」
「うああああっ!」
総勢五十名の人間たちが、見えない刃に切り裂かれたかのように、その場に崩れ落ちた。みな痛々しい悲鳴をあげたかと思うと、そのまま動かなくなる。
「…………」
あとには静寂だけが残された。
あれだけ猛威を振るっていた人間たちが瞬時にして消え去ったのだ、異様なほどの静けさが周囲を支配する。
「は……? な、なにが起きた……?」
隣でぎょろりと目を剥くバース。
ルイスは苦笑しながら答える。
「これが《絶対勝利》ってやつだ。やべぇ魔王クラスの強敵以外なら、一瞬で敵を倒せる」
「う、嘘だろ……?」




