おっさんたち、最強を極める
「ぐ……はぁ……はぁ……」
ルイス・アルゼイドは太刀を地面に突き立て、片膝をついた姿勢で荒い呼吸を繰り返していた。
これは――かなりきつい。
前方からは、いまだ夥しい古代魔獣がにじり寄ってきている。もう相当数を蹴散らしたはずだが、まだゾンネーガ・アッフの大群が消える気配はない。紅の瞳に明確な戦闘本能をたぎらせ、一歩、また一歩と近寄ってくる。
横を見れば、アリシアやフラムも激しく肩を上下させている。気持ちでは負けていないが、身体がついていかない――そんな様子だ。
だが、その代わりに得るものも多かった。
《経験値二倍》の効果と、多くの古代魔獣を倒すことにより……信じられないほど経験値が溜まっていくのだ。ルイスが何度か太刀を振り回すたび、レベルアップの表示が視界に映り込む。
それでいて、《無条件勝利》の精度が高まっていくのも確かに感じ取れるのだ。
実際にも、ルイスは修行開始から現在に至るまで、ずっと《無条件勝利》を使用中である。おかげでさすがに疲れてしまったが、昔よりはるかに動けるようになっていることは間違いない。
この修行……苦しいが成果は確実に現れてきている。
と、そのとき。
ルイスは大きく目を見開いた。
自身を優しげな新緑の輝きが包み込んだからだ。それと同時に、限界だった体力がほぼ全快近くまで回復する。
「こ、これは……」
再び横を見やると、アリシアが杖を構えているのが確認できた。
「お……?」
同様の輝きがフラムにも訪れる。彼女も体力を取り戻したようだ。
「アリシア……おまえ、まだ《完全回復を使えたのか》」
掠れる声を発するルイス。
この修行中、アリシアは何度もルイスとフラムに回復魔法をかけてくれた。いままでの彼女ならば、とうにMPの限界が訪れているはずだが……
「うっふん」
アリシアは大きな胸を誇らしげに張った。
「強くなってきてるのはルイスさんだけじゃないですよ。私だって――ほら!!」
アリシアは前方に杖を突き出すと、瞳を閉じ、例のわけわからん呪文を唱え出す。
「我が源に秘められし力の奔流よ。いまより深淵を呼び起こし、その力を顕現せよッ!」
いつもながら、その臭い詠唱、よくスラスラと思いつくものである。
――と。
前方向、ゾンネーガ・アッフたちのひしめく地上が、ぐにゃりと歪みだした。
次の瞬間。
ルイスは思わず
「うおっ!」
と言って後ずさる。
ズドォン! というすさまじい衝撃音とともに、地表から巨大な槍が突き出されたのである。なんとも禍々しい大槍だ。小さな山くらいの規模はあるのではないか。
そんな物騒なモノが、次から次へと各所から湧き出てくるのである。これに驚かないほうがおかしい。
さしものゾンネーガ・アッフもこれは堪えるようで、あちこちでぎゃあぎゃあと悲鳴をあげている。直撃した者はそのまま貫かれ、ぴたりと動かなくなる。なんとか免れたとしてもかなりのダメージを被るようで、地面に這いつくばったまま苦しそうにもがいている。
ちなみに、ここでHPが切れたゾンネーガ・アッフはそのまま魔物界に転送される仕組みになっているようで、実際に死ぬわけではないという。最初にロアヌ・ヴァニタスがそう教えてくれた。
「ほう……」
脇で戦いを見守っていたロアヌ・ヴァニタスが感心の声を発する。
「エルガーの相棒が得意としていた魔法のひとつだな。完璧に使いこなしてるじゃないか」
「魔王よ、そんなにこいつを誉めないでやってくれ。すぐに調子乗るからな」
ため息を吐くルイスに、アリシアが不満そうに頬を膨らませた。
「むう、ルイスさんひどい。こういうときは素直に誉めてくださいよ」
「はいはい。わかったわかった」
ルイスはひょいと肩を竦めた。
「クク、これなら我が回復せんでもいけそうだな。よし貴様ら、このまま自力であのゾンネーガ・アッフを倒せ!!」
またも無茶ぶりする前代魔王だった。




