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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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勇者の遺志を継いだおっさん

「…………」


 ルイス・アルゼイドは、呆けたまましばらくなにも言えなかった。


 いままで不可解だった出来事が、すべて一本の線につながるのだ。


 二千年前の戦争。

 勇者エルガーの過去。

 ルイスとアリシアのスキル。


 それらすべての話が、ルイスにとって衝撃的だった。


「しかし……フフ。不思議なものよな」

 ふいにロアヌ・ヴァニタスがおかしそうに笑う。

「なんの因果か、《無条件勝利》と《古代魔法》の使い手がともに行動していようとは。さすがに我も驚いたよ」


「そ……そうか……」


 言われてみればそうだ。

 鏡宝球きょうほうきゅうはスキルをコピーすることはできても、それ以上の能力はないはずだ。


「……じ、じゃあ……」

 アリシアが頬を赤らめながら言う。

「私とルイスさんは……その、運命の相手で……奇跡的に出会えたってことですか……?」


「うむ。そういうことだ」


「そ……そう言われるとちょっと恥ずかしくなりますね……」


「…………」


 ひとり頬をおさえるアリシアを、フラムが冷たい目で見やっていた。


「こほん」

 ルイスは再び咳払いすると、前代魔王に訊ねる。

「待てよ。じゃあ、なんで俺のスキルは《絶対勝利》じゃねえんだよ。勇者からコピーしたんだろ?」


「……さっきロアヌ・ヴァニタス様がおっしゃったでしょう。絶宝球ぜつほうきゅうの力は強すぎるのですよ」


 そう答えたのは、さきほどまで聞き役に徹していたロータスだった。紫色の肉をフォークで弄びながら言う。


「いくら鏡宝球といえども、同じ宝球の能力をコピーするには負担が大きかったのです。……ですから、やや弱体化された状態でコピーされたのかと思いますよ」


「そういうことだ」

 ロアヌ・ヴァニタスがしっかりと頷く。

「貴様も感じただろう。《無条件勝利》は使えば使うほど、本来の力を取り戻していく。……そして、いずれは絶宝球そのものに対抗しうる力を得るはずだ」


「む……」


「これでわかったかな。世界を救えるのは貴様たちしかいない。特にルイス。貴様に世界の命運がかかっている」


「…………」


「貴様にとっては、故郷たる帝国を敵にまわすことになる。……それでも、戦ってくれるかな」


 前代魔王の強い眼光を、ルイスはしかと受け止めた。


 ――勇者エルガー・クロノイス。

 彼は帝国と共和国の間で板挟みになり、苦しみながら戦うことになった。本当は戦争などしたくなかったのに、故郷を守るために剣を振るった。


 さぞ……長く苦しい葛藤に苛まれてきただろう。


 そして、いま。

 二千年の時を経て、勇者の遺志はルイスに引き継がれた。


 正直に言って、荷が重い。

 ルイスはつい最近まで平凡以下のおっさんだったのだ。

 そんな男が世界を救うなんて――笑い話もいいところである。


 でも。


「愚問だな。魔王よ」


「む?」


「ついさっき風呂場でも話したことだ。こんなものは平和じゃない。たとえソロモア皇帝陛下を敵にまわすことになっても……俺たちは戦う」


「そうですね」

 アリシアが決然と言葉を引き継ぐ。

「なによりも、ユーラス共和国にはお世話になった方々がいます。たとえ敵国であったとしても……いまの状況を見捨ててはおけません」


「アリシア……」


 フラムが嬉しそうにぽつりと呟いた。


「だがな」

 前代魔王は半笑いとともに言う。

「わかっているのか? 帝国を敵にまわすということは――貴様らの身内に手が及ぶかもしれんのだぞ?」


「それこそ愚問だ。俺に友達はいない」

「私もきっと大丈夫です。お父さんとお母さんが、みんなを守ってくれてるはずですから」


「…………」


 さすがの前代魔王も呆れ返ったか、片手を額にあてがい、天井を仰いだ。


「おい聞いてるか、エルガーよ。貴様の後輩は想像以上の傑物けつぶつだったようだ」


「……なにを言ってる」


「いや、なんでもない」

 ロアヌ・ヴァニタスは姿勢を戻して言った。

「元の世界に帰るには、魔王城にある転移門を使うといい。いまは現代魔王が管理していてな。そこからいつでも帰れる」


「そ、そうか……」


 案外簡単に帰れそうだ。

 いや、さすがのレストも、前代魔王と手を組んでいるとは予想していなかったか。


「だが、このまま帰ってもいまの貴様らでは絶宝球に太刀打ちできない。このロアヌ・ヴァニタスが貴様らのスキルを徹底的に鍛えあげてやろう。きっと予想もつかないほど強くなるぞ?」


 にやりと笑う前代魔王だった。


  ★


 ――魔王城。

 現代魔王――ガーラス・ゾンダは、玉座の上でひとりため息をついた。


 ――どうやら、前代魔王ロアヌ・ヴァニタスが帰還したようだ。


 同時に人間の気配が三つほど感じ取れる。どこかの村でくつろいでいるようだ。


 無事、絶宝球ぜつほうきゅうに対抗しうる人間たちを連れてきたらしい。


 これでひとまずは安心か。

《絶対勝利》スキルが再び発動した現在、世界の行く末は彼らに任せるしかない。魔王だなんだと言っても、その力は宝球にははるかに劣るのだから。


「ふう……」


 ガーラスはニ度目のため息をつく。

 とりあえず、今日はもう寝よう。


 きっと明日にはロアヌ・ヴァニタスがここを訪れるはず。早く人間たちの修行の準備をせねばならない。


 ――そのとき。


「な……なんだ」


 ガーラスは知らず知らずのうちに呟いた。

 見覚えのない気配をふいに感じたからだ。


「ごきげんよう。現代の魔王くん」


「な、なに……!?」


 低く籠もったような声が背後・・から聞こえ、ガーラスは心臓を鷲掴わしづかみにされたかのような恐怖を覚える。


 馬鹿な。この俺の背後を取るなどと……!


 慌てて振り返る。


「なっ……!」


 ガーラスはまたも言いようのない衝撃に見舞われた。

 人間だ。

 真紅のフードを被っており、詳細な風貌は掴めないが、すくなくとも魔獣ではない存在が、いつの間に魔王城に侵入していた……


「……何者だ、おまえ」


 威勢よく放った言葉も、知らず知らずのうちに震えてしまう。


「クク。ユーラス共和国もたいしたことないな。こちらへの《門》は簡単にこじ開けることができたよ」


「な、なんだと……!」


 ガーラスはぎょっと目を剥いた。腰を低くし、油断なく人間を睨みつける。


「さては貴様、帝国からの刺客か! こちらへの《門》はユーラス共和国にしか通じてないはずだぞ!?」


「簡単なことだろう。我がサクセンドリア帝国はたったいま、ユーラス共和国を完全に制圧せしめたのだ。これでやっと、我が国は世界一の大国となる!」


「ぐ……!」


「ひいては、裏切り者を始末するよう陛下から頼まれてね。現代魔王くん。君もついでだから殺してあげるよ」


「なんだと貴様……!!」


 魔王を相手に大きく出たものだ。

 ロアヌ・ヴァニタスには及ばないまでも、現代の魔王を務めるガーラス。ただの人間ごときに遅れを取るわけがない。


「クク……本当にそうかな」

 そんなガーラスの心境を見透かしたかのように、人間はヘラヘラと笑う。

「スキル発動……《無条件勝利》」


「なに……!?」


 ガーラスが目を見開いた、その瞬間。


 人間の周囲にとめどなく湯気がほとばしり始めた。透明の霊気が突如として発生し、奴をまとっていく。


「ば、馬鹿な……。そのスキルは……!」


 無意識のうちにガーラスは数歩後退する。


「皇帝陛下からいただいたものでね。まあ《ちょっと》しかもらえなかったが……それでも充分すぎるほどの力だ」


「…………」


「わかるだろう魔王くん。このスキルさえあれば、君なんて目じゃないんだよ。――さあ、潔く死んでくれないかなぁ?」




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