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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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おっさんの歴史と勇者の歴史 4

 ロアヌ・ヴァニタスはふうと一息つくと、濁った液体の入ったグラスをぐいっと飲み干した。本当にあんなものが美味いのか、ぷはーっなどと言っている。


「どうした人間たちよ。せっかくの食事だ。もっと堪能してはどうかね」


「……いや。そう言われてもな」


 困惑顔になるルイス。


 ロータスの用意してくれた食事はたしかに美味いが、話の内容が衝撃的すぎて飯が喉を通らない。


「あ。ルイスさん。いらないなら私食べますよ?」


 そんななかでも相変わらず図太いアリシアが、ルイスの卵焼きを奪い取る。そして止める間もなくそのまま頬張ってしまった。


「お、おまえって奴は……」


 思わずジト目を向けるルイス。


「だって食べたかったんですもん。えへへ」


「えへへじゃねえよ……」


 まあ、ルイスももうおっさんだ。若い頃より食欲も衰えたし、なによりいまは食事する気分じゃない。


 ふと見れば、フラム・アルベーヌも遠慮なくご飯をかきこんでいる。二人してたいした胆力だ。


「こほん」

 ルイスは咳払いすると、両手をテーブルの上で組み、前代魔王を見つめた。

「それで……教えてほしい。勇者エルガーは、そのまま魔物界に住み着いたのか?」


「うむ。最初は困惑していたが、すこしずつ慣れてきたようでな。貴様らとて、魔獣と会話する日が来ようとは思ってもいなかったろう?」


「そりゃ……まあな」


 言いながらポリポリと後頭部をかく。

 それを言うならば、ユーラス共和国の人間――フラム・アルベーヌと行動をともにしていることも、以前なら考えられなかったことだ。


 言うまでもなく、現在の帝国と共和国には深い溝がある。にも関わらず、フラムはルイスたちについてきてくれているわけだ。


「そのような日々のなかで、エルガーは魔物界をすっかり気に入るようになった。絶対悪とされてきた魔獣だって、自分たちと同じ生き物だ……そう言ってたな」


 すこしだけ、ロアヌ・ヴァニタスの声色に感情が混じった気がした。


「それと同時に、帝国に対する不信感も芽生えていたよ。これは単純な戦争じゃない。共和国や魔物界を潰すことでは平和は訪れない……そんなふうに語っていた」


 そこで、ロアヌ・ヴァニタスはまっすぐルイスの眼光を捉える。


「だが、平和な日々は長くは続かなかった。帝国からの使者がやってきてな。勇者が戦線を離れた影響で、帝国は負けつつある……それを告げにきたのだ」


「…………」


「そして、侵入してきた共和国の兵士が、エルガーの母親を殺したと――使者はそう言った」


「え…………」


 掠れ声を発したのはアリシアだった。さすがに食事の手を止め、前代魔王に言葉を投げかける。


「そんな……切ないことって……あるんですか……」


「うむ。だからエルガーは相当に悩んでいた。共和国も魔物界も滅ぼしたくない、だが自分が動かなければ、故郷が滅ぶ」


「そりゃあ……たしかにエグいな」


 フラムもさすがに表情をひきつらせていた。


「それで……どうしたんだ……?」


 尋ねるルイスに、前代魔王はこくりと頷く。


「聞くまでもなかろう。戦線に戻り、共和国と最期まで戦ったさ。魔王ロアヌ・ヴァニタスは殺したことにして・・・・・・・・な」


「え……」


「まあ、さっきも言ったように魔物界は疲弊しきっていてな。絶宝球ぜつほうきゅうに狙われさえしなければ戦争に出向く理由もないし、滅んだことにすれば都合が良い。エルガーがそう提案したのさ」


「あの勇者が……」


 ぽつりと呟くアリシア。


「それが奴にとって、せめてもの罪滅ぼしだったのだろう。殺さなくてもいいはずの命を沢山奪ってしまった――その重責はさぞ重かろうよ」


 シン、と。

 周囲に静寂が訪れた。


 想像以上に苛烈な勇者エルガーの人生。

 帝国であれほど勇者だ勇者だと祀り上げられていたエルガーに、そんな背景があったとは。もちろんのこと、皇族はこの内容をおくびにも出していなかった。古い文献にすら載っていないという徹底ぶりだ。


 重厚な沈黙を、前代魔王ロアヌ・ヴァニタスが破る。


「だが……エルガーとて自暴自棄になったわけではない。『自分にはなにもできなかったけれど、再び世界に危機が訪れたとき、有望な人間にこの力を託したい』――そう言い出してな」


「…………」


「我はその願いを聞き入れた。鏡宝球きょうほうきゅうの能力を用いて、勇者エルガーの《絶対勝利》、そして相棒の魔術師の強力な魔法をコピーすることにしたのだよ」


「あ……」


「強大な力のコピーはさしもの鏡宝球きょうほうきゅうにも荷が重いようでな。それでもなんとか働いてくれた」


 そして勇者エルガーは、鏡宝球きょうほうきゅうにこう願ったという。


 ――世界に再び危機が訪れるとき、最も真面目で、最も努力家で、諦めない心を持っている二人の人間にこの力を託してほしい――


「あ……そ、それって……」

 アリシアがぱちくりと目を見開く。

「うむ。察しの通り、ルイス、アリシア、貴様らは鏡宝球に選ばれし人間となったのだ。スキル獲得の前、妙な表記がステータスにあっただろう?」


「あ、ああ……」


 ルイスは思い出す。スキル項目の欄に、《Bサ》という意味不明な表示があったことを。

 あれは鏡宝球によるスキルコピー対象者の候補だったためだという。


「お、驚いたな。おりゃてっきり、レベルアップしたから《無条件勝利》を手に入れたもんかと」


「ああ。レベルアップもたしかにきっかけのひとつにはなっただろうが……よく思い出せ。レベルアップするまで、貴様らは《諦めない心》を持っていたか?」


「あ……」


 思わず素っ頓狂な声を発してしまう。

 言われてみればそうだ。

 初めてレベルアップしたあのとき――ルイスはアリシアに抱きしめられ、《絶対に生きて帰りましょう》と諭された。


 それまでは、自分に絶望していたしがない中年だったのに。

 アリシアの涙のおかげで、あのときのルイスに新たな心が芽生えたのは事実だった。


「あ……私もそうです!」

 アリシアもなにかを思い出したかのように手を挙げる。

「私も正直、自分の過去から逃げてました。でも、それでもルイスさんが受け止めてくれて……ギュスペンス・ドンナから守ってくれて……もっと頑張ろうって思えたんです」


「ふふ。わかったようだな」

 前代魔王が満足げに頷く。

「ルイス、アリシア。おまえたちは以前まで、最底辺の冒険者に過ぎなかった。だがそれでも研鑽けんさんを怠らなかった結果、いままでの努力が報われ――それぞれに最強スキルを得た。これが経緯いきさつだ」



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