おっさんの歴史と勇者の歴史 2
前代魔王いわく――
この世界には、六つの宝級なるものが存在するという。
「それぞれが絶大なる力を有していてな。望むものをすべて実現化したり、死者と生者を入れ換えたり……この世の理を超えた力を持つ球……それが宝球だ」
そして、あのとき皇帝ソロモアが使用したのも、その宝球のひとつ――絶宝球というらしい。
絶宝球の効果は《絶対勝利》。
どんな相手とも無条件に勝利する、この世の理解を超えた力……
「な……」
そこまでを聞いて、ルイスはぞっとした。
「絶対勝利……そりゃあまさか……」
「その通り。貴様の持つ《無条件勝利》と酷似しておるな」
「どういうことだ……。《無条件勝利》はその絶宝球と関係あるのか……?」
「そう慌てるな。いまから順序立てて話すところだ」
二千年前。
サクセンドリア帝国とユーラス共和国は、現在と違い、友好的な関係を築いていた。
正式な手続きさえ踏めば、たとえ一般人でも自由に出入りできる状態だったのである。
両国のトップも仲が良く、公式・非公式を問わず、頻繁に会食を繰り返し、ともに今後の展望を話し合っていた。
その平和を打ち破ったのは当時のサクセンドリア帝国の王――名をギルバースといった。
ギルバースは野心の強い男だった。
表向きは良い顔をしていながら、その裏で、世界のどこかに潜んでいるという宝球を探し求めていたのだ。
その妄執は尽きることを知らない。
秘密裏に捜索部隊を作成してまで、ギルバースは長い間宝球を求め続けてきた。
その甲斐あってか、ついにギルバースは絶宝球を見つけてしまう。
絶宝球――すなわち、絶対勝利の力。
これさえあれば世界を掌握できると踏んだギルバースは、大胆にも全世界へ向けて宣戦布告した。
ロアはあくまでも淡々と語る。
「絶宝球の力は文字通り絶対的でな。これに多くの者が翻弄されたのだよ」
「……そんなことが……」
ルイスは思い出す。
あんなに強かったレスト・ネスレイアでさえ、帝都から放たれた可視放射によって一撃で沈んでしまった。
どんな相手でも無条件に勝利する、まさに理を超越した力……
黙りこくる一同に、魔王はさらに話を続けた。
「これに危機感を抱いたユーラスの大統領は、ある種族に協力を依頼した。それが我々――魔物界の住人だ」
「マジかよ……!」
なるほど。
そう繋がってくるわけか……
「実は、この魔物界にもひとつだけ宝球が存在してな。鏡宝球……ステータスやスキルをコピーする、こちらも理を超えた力を誇っている」
「…………」
「当時、我が魔物界は殺伐とした世界でな。人間なぞに協力する義理はなかったのだが……絶宝球の脅威がこちらにまで及び、そうは言っていられなくなったのだよ。鏡宝球の力も借りて、我々はついにいいところまで帝国を追いつめた」
ごくり、とルイスは唾を飲む。
ロアヌ・ヴァニタスはそこでふうと息を吐くと、やれやれと言ったように肩を竦めた。
「焦ったギルバースは、絶宝球の力の一部を誰かに譲ることにした。その人間に我々を倒してもらおうとしたのだよ。だが精鋭の兵士は多くが戦死してしまっている。だから適当な人物を見繕うことにした。無能だが、それゆえに真面目で、扱いやすい青年――それがエルガー・クロノイスだ」