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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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三人の決意

 ルイスの背中を洗いながら、アリシアが言う。


「ルイスさん、力加減はどうですかー?」


「お、おう。いい感じだよ」


「ふふ。何気に初めてですよね。ルイスさんとお風呂入るの」


 舐めてもらっちゃ困る。

 こちとら女の子との入浴そのものが初めてだ。

 しかも魔物界でそれが実現するなんて――人生、なにが起きるかわかったものではない。


 アリシアもさすがに恥ずかしがって、バスタオルを全身に巻いている。おかげで目のやり場に困ることはない。


「あ。ルイスさん。いま変なこと考えましたね」


「……不可抗力だ」


「ぶーぶー。ルイスさんのえっち」


「いちいちうるせえ奴だな……」


 その後もくだらない掛け合いを続けたあと、アリシアはふと手を止めた。どうしたものかと思ったとき、ぽん――と、アリシアが頭をもたげてきた。


「もし帝国に戻れたら……ずっと、二人でこういうこともできるんですよね……」


「……そうだな」


「……私たちが戦わなくても、帝国はもう平和になりました。ヴァイゼ大統領も、レストさんも……姿を消しましたし」


「ああ……」


 そしてリッド村に帰り、このまま家族みんなで幸せに暮らしていく……

 なんと夢のような話だろう。たしかに願ってもないことではある。


 けれど。

 ルイスには、アリシアの言わんとしていることが痛いほどにわかった。


 帝国は平和・・になった。


 ルイスとアリシアは帝国人だし、帝国にさえ到着すれば問題なく受け入れられるだろう。あのもやを見た感じだと、皇帝ソロモアは共和国を属国化し、帝国そのものの格を上げようとしているようだった。


 でも、とルイスは思う。

 それでいいのか――と。


 なかば自分に語りかけるように、ルイスはぽつりぽつりと話し始めた。


「共和国に行って……感じたことがある。たしかにみんな帝国を嫌っていたが、その本質はなんてことない、普通の人間だった」


「はい……」


 そのなかで、出会って良かったと思える人もたしかに存在した。


 フラムはもちろん、彼女の母親に、ギルドの新人受付嬢など――素晴らしい人も間違いなくいたのだ。


 ルイスは思う。

 ヴァイゼ大統領の煽動さえなければ、もしかすれば、共和国人とも理解しあえたのではないか……と。


 もちろん、途方もない話ではある。

 帝国と共和国の微妙な関係は二千年も続いてきたのだ。

 そう簡単に決着がつく話ではない。


 それでも。


「なあアリシア。こういうとき、アルトリアのじいさんならなんて言うだろうな」


「え……?」


「ワシらみんな家族じゃ! とか言って、共和国の人たちも助けたりしそうじゃねえか?」


「…………」

 アリシアはしばらく黙考したあと、「ふふ」と笑って言った。

「そうですね。きっとお父さんならそう言うと思います」


「俺もそう思うよ。世界を救うなんて大それた話だが――このまま帝国に帰って、俺たちだけノホホンとくつろぐことはできない」


「…………」


「だから俺は戦うよ。こんな平和・・は間違ってる。皇帝にガツンと言ってやるさ」


「ルイスさん……」


「――その話、本当か……?」


 ふいに新たな声が聞こえ、ルイスは思わず背筋を伸ばした。

 慌てて振り返れば、同じくバスタオル姿になったフラム・アルベーヌ。アリシアに比べて凹凸は少ないが、なかなかしなやかな肢体を――じゃなくて。


「お、おまえ、いつの間にここに……!?」


「い、いや。ロアに《ちょうどいい頃合いだから入れ》と言われてな。そしたら……」


「あ、あのクソ魔王が……!」


 思わず歯ぎしりするルイス。


「あ、じ、邪魔だったか……? なんか良い雰囲気だったし……」


 頬をピンク色に染めながら呟くフラム。ルイスをちらちら見ては恥ずかしそうに床に視線を落としている。


「いや、この場合、邪魔なのは俺のほうでは……」


「「そんなことない!」」


 くわっと否定してくる二人。


 適当に言い訳して退散しようかと思っていたが、ここまできっぱり拒否されてはどうしようもない。


「い、いや違う。そんな話をしたいんじゃないんだ」

 フラムは取り直したように咳払いすると、木桶の縁に腰を下ろした。

「……守ってくれるのか? 私の故郷を……ユーラス共和国を……」


「フラム……」


 そう呟くルイスを、フラムはすがるように見つめてきた。


 今回の事件で、一番心を痛めているのは彼女だろう。

 あのもやを見た限りだと、謎の黒兵士たちが共和国を占領し、抵抗者は問答無用で殺害しているように思えた。家族や知人が心配でならないはずだ。 


 そうだ、とルイスは思った。


 俺が戦うべき理由は、ここにもあったのだ。


「安心してくれ。俺ごときに世界を守れるかはわからないが……このまま帝国に帰るつもりはねえよ。ガツンと立ち向かってやるさ」


「私も……私もです」

 ルイスの言葉を、アリシアが引き継いだ。

「やっぱりこんな平和は間違ってます。たとえ皇帝陛下が敵になろうとも……私たちは戦います」


「あ、あんたたち……ありがとう……。私……ずっと……」


 いままで不安を溜めてきたのだろう、フラムは普段の気丈さはどこへやら、彼女は両目を覆って泣き始めた。


「大丈夫。もう大丈夫ですから」


 そんな彼女を、アリシアが優しく抱きしめた。



 



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