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最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る。  作者: どまどま@チートコード操作 書籍化&コミカライズ
【三章】 魔物界編 ~最底辺のおっさん冒険者。ギルドを追放されるところで今までの努力が報われ、急に最強スキル《無条件勝利》を得る~
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皇帝ソロモア・エル・アウセレーゼ

 プリミラ・リィ・アウセレーゼは、どうしても緊張感を抑えられなかった。


 今日は皇帝ソロモアが公式声明を発表する日。

 帝国と共和国が激突し、緊迫感が高まるなか、父がいったいどのような声明を発信するのか……。皇女たるプリミラでさえ、まるで見当がつかなかった。



 ――昨日。

 思わぬ力を発動し、帝国全土を闇色に染めた皇帝ソロモアは、続けて共和国へと侵攻を開始した。まだ混戦状態のようだが、直近の情報によると、こちらがかなりの優勢らしい。


 これを受けて、ヴァイゼ・クローディアやレスト・ネスレイアを始めとする主要人物はいずこへと姿を消した。どこかで身を潜め、逆転の機会を窺っていると見られる。


 だが――おそらく、無駄な抵抗だろうと思われた。


 父がどこからともなく呼び出した《兵士》たちは見るからに強大だったのだ。共和国に在住する《黒装束》すらも蹂躙じゅうりんしているという。父がどこでそんな戦力を隠し持っていたのかは不明だが、力の差は歴然だった。


 もはや戦争とさえも呼べない、一方的な制圧といえた。




 ――謁見の間。


 普段は厳正な静けさに満ちているこの場所に、多くの人々が押し寄せていた。プリミラの兄弟を筆頭として、帝国の中枢を担う者たちだ。また魔術師も数名だけ在席しており、皇帝の声明を、帝国――いや、世界中に発信するのだと思われた。


「とうとう、この日が……」


「ああ。私の親戚も神聖共和国党しんせいきょうわこくとうにやられてね。共和国には憤慨していたところだよ」


「そうですね……。それで共和国あっちは知らんぷりでしょう? おかしいですよ」


 みな一様に興奮した顔つきをしていた。


 憎きユーラス共和国に、とうとう報復ができる……

 そのことに嬉しがっているようだった。皆あまり口に出さないとはいえ、共和国に対して反感を持っているのである。


 でも――とプリミラは思った。


 違う。

 たしかに帝国の平和を願っていたけれど、私が望んだ世界はこんなのじゃない……


 お父様……いったいなにを考えているのですか……

 それとも、まだ私が幼いだけなのですか……

 お父様……




 皇帝ソロモア・エル・アウセレーゼが現れたのは、それから数分後のことだった。ヒソヒソ話をしていた重鎮たちも、頭を下げ、重ねた両手を腹部にあてがっている。


 帝王はその様子に満足げに頷くと、玉座に腰を下ろし、足を組んだ。そのまま魔術師を向いて言う。


「術を発動しろ。帝国と共和国だけではない。全世界に存在する、中小の国にも届けるのだ」


「ハッ。準備はできております」


「うむ」


 帝王は再び満足げに頷くと、おもむろに立ち上がり、両手を広げて言った。



『世界に住まうすべての人々よ! 突然の演説、申し訳ない! 私はソロモア・エル・アウセレーゼ! 帝国サクセンドリアを導きし王である!』


 プリミラは思わず目を細めた。

 なんという力強い声。

 いま、父の声が、世界全土に響いている……


『諸君もご存知だと思うが、我が隣国――ユーラス共和国が、大勢の兵士を従えて、我が国を侵略しにきた! これは重大事件である! こちらも大勢の死者が出た!』


『ユーラスの蛮行はこれだけに留まらない! これまでも、神聖共和国党しんせいきょうわこくとうという傀儡くぐつを通し、我が国に武力攻撃を行ってきた!』


『……それでも我々は、平和を愛する民族として、反撃はしてこなかった。いつかわかってくれるだろう……そう願っていたからだ。だが――事ここに至り、ヴァイゼ大統領みずからが公式声明を発表し、無実の罪をでっちあげてまで帝国を侵攻するならば――話は別である! 帝国に秘められし力をもって、反撃を開始した!』


『諸君に問いたい。私は間違っているだろうか? これまでさんざん痛めつけられてきた。こちらがなにも言わないのを良いことに、テロ行為を助長させ、我が国を取り込まんとしてきた。自国の民を守るために反撃することは……間違っているだろうか?』


 ――そういうことか。


 プリミラは思わず唸ってしまった。


 侵攻の口実をつくりあげ、国民や他国の共感を得る……

 そのために、ソロモアはあえて共和国に手を出さなかった。

 ヴァイゼ大統領が尻尾を出す、そのときまで……


 なんということか。

 プリミラはヴァイゼに踊らされてしまったが、そのヴァイゼすらも、帝王ソロモアは駒として扱ったわけだ。


 そして。

 帝国全域に広がる闇の壁、共和国を圧倒するほどの兵力……

 こんな不可思議な力を見せつけられてしまっては、他国としても不用意な発言はできない。


 つまり、反論できる余地がない。


『よって――私は今日、全世界に発表する。ユーラス共和国を、我が属国とすることを!』


 おお……!

 というどよめきを、何者かが発した。


『共和国の者たちは我々を《テイコー》などと呼んでいたらしいが……属国たる共和国の者どもにも、名称を与えねばなるまい。我が帝国初めての属国という意味で、共和国人には《イチ》という名前を与える。光栄に思うがいい。そして我が帝国人を崇めるがよい!』


 ああ、お父様……


 おおー! と歓声をあげる者たちに挟まれ、プリミラはひとり、うつむいていた。



 


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