おっさん、みんなと力を合わせる
ユーラス共和国。
帝国へと繋がる国境門の手前。
「おおおおおおおッ!!」
男の叫声が二つ、大きく響き渡った。
心眼一刀流――勇者エルガーのみが使えたという絶技を、その男たちはほぼ同時に振るった。
片やおっさん冒険者、ルイス・アルゼイド。
片やSランク冒険者、レスト・ネスレイア。
通常ありえない速度で繰り出される剣技に、周囲の戦士たちはしばし呆然と見やっていた。
二人が剣を振るうだけで突風が舞う。
剣と剣がぶつかり合うたび、雷のような筋が周囲に拡散する。
Aランク冒険者ですら近くにいるだけで大火傷しかねない――そんな激戦区と化していた。
あれだけ愉快そうに笑っていたレスト・ネスレイアも、このときだけは真剣そのものの表情だ。ルイスの一挙手一投足を見逃すまいと、意識を戦いに集中している。
――やはり、強い。
ルイスは思わず心中で唸った。
まさかこれほどの猛者がいようとは。
《無条件勝利》を使ってもなお苦戦するのは、ロアヌ・ヴァニタスを除けば彼が初めてだ。
見れば、彼の後方ではミューミ・セイラーンがなにがしかの魔法を発動させようとしている。妨害したいところだが、さりとてレストがそれを許すはずもない。
それに……
「ちっ……!」
ルイスは無意識のうちに表情を歪ませる。
《無条件勝利》の長時間使用によるためか、疲労が重くのしかかってきたからだ。
習得直後よりは疲れにくくなっているが、やはり急速に体力が削られることに変わりない。
瞬間。
ルイスの全身を、優しげな新緑の輝きが包み込んだ。
完全回復。
後方を確認するまでもない、アリシアによる《古代魔法》だ。
「……はっ、すげえな」
剣を振るいながら、レストは苦笑いを浮かべる。
「息ぴったりってやつかよ。そりゃ魔王も苦戦するな」
「ふん。伊達に長く相棒やってねぇからな」
昔からそうだ。
ルイスとアリシア。
互いに足りないものを、うまくカバーしあいながら戦う。
そのスタイルは、《無条件勝利》を手に入れる前から変わっていない。
「それだけに恐ろしいぜ。あんたが《無条件勝利》を極めたら……いったい、どんな境地に至るんだろうな」
「極める……?」
「ああ。たぶん、いまよりももっと、やべぇくらい強くなると思うぜ。アリシアもだ」
そこでレストはふっと笑う。
「だが、いまはまだ発展途上の段階。いくらでも対策はあるってもんだぜ!」
おらっ!
レストは裂帛の大声をあげると、強引に剣を振り払ってきた。避けようとするが間に合わない。
「ぬっ!」
ルイスはかろうして刀身で自身を守るが、勢いよく後方に飛ばされてしまった。ダメージそのものはないが、大きな隙が生じる。
「もらったァ!」
立ち直る余裕を与えないためか、レストは瞬く間に駆け寄ってくる。かなりのスピードだ。さすがに対処できない……!
「ぬおおおおあっ!」
そこで、新たな人影がレストに飛び込んでいった。
フラム・アルベーヌ。
俊敏性だけなら前代魔王をも凌ぐ、凄腕のSランク冒険者だ。
「わわわっと!」
レストは慌てて防御の体勢を取り、ギリギリのところでフラムの短剣を受け止める。
「ひゃー。危ねえ。やっぱり速ェな、フラムの嬢ちゃん」
「ギルドマスター……」
フラムはレストと剣の押し合いを続けながら、悔しそうに歯を食いしばった。全身の筋肉がわずかに震えている。
「いや、もうレストと呼ばせてもらおう。あんたが……あの黒装束を使役して、私を拉致しようとしたんだな」
「ま、そういうこったな」
あくまで平然と答えるレスト。
「俺があんたの意識を操っても良かったんだが、ヴァイゼのジジイがそれじゃ駄目だって言うんだ。見てみろよ。俺の部下たちを」
言われて、フラムやルイスはちらりと横を見やる。
帝国の冒険者ギルド、そして神聖共和国党が、黒装束と決死の戦いを繰り広げていた。
A、Sランク冒険者が揃う黒装束と、彼らはうまく張り合っていた。過去にあれだけやり合ったのだから、互いのクセでも覚えているのだろうか。実力的には負けている相手と、よく戦っていた。
加えて、黒装束の戦い方はどこか覚束なかった。
以前も感じたことだが、意識を乗っ取られているためか、論理的な思考に支障をきたしているようだ。いわば操り人形である。
「《意識操作》は便利だが、俺の指示がないとなにもできやしねえ。だから、素のままで従ってくれる部下が欲しかったんだよ。そういう意味じゃ、あんたは適任だった」
……なるほど。
彼女は当初、神聖共和国党を憎み、そしてまた、帝国をこれでもかと言うほど恨んでいた。
捕縛にさえ成功すれば、余計なことをしなくてもついてきてくれる――そんなふうに考えていたというわけか。レストが直接フラムに手を下そうにも、彼は長い間、帝国にいた。だから部下に任せていたのだろう。
「けど、ヴァイゼのジジイいわく、もうあんたはいらねえみたいだ。ルイス側についちまったし、それに別の企みがあるようでな」
「企み……?」
「はは。ま、これ以上は喋れねえよ。自分で考えな」
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