おっさん、チートを手に入れる
と、ふいに。
聞き慣れない女性の音声が、ルイスの耳朶を刺激した。
同時に、自身のステータスが視界いっぱいに映る。
《 レベルが上がりました。
筋力……37
魔力……15
体力……34
敏捷度……98 》
「うお……」
思わず呻き声を発してしまう。
今更レベルアップか。
四十手前まで生きてきて、一度たりとてレベルが上がらなかったのに。
おそらく骸骨剣士を倒したことで一気に経験値が溜まったんだろう。それにしても遅すぎるが。
すると。
《新しく、スキル【無条件勝利】を取得しました。使用しますか?》
「……は?」
無条件勝利?
なんだそのスキルは。まるで聞いたことがない。
スキルというのはあくまで戦闘の補助的役割を果たす。攻撃力アップとか、毒属性付与とか、その程度の効果しか存在しないはずだ。
無条件勝利なんて……本当に聞いたこともない。
だが、いまは緊急事態だ。試せるものはなんでもやってみるしかない。
ルイスはふうと息を吸うと、大声で叫んでみせた。
「スキル発動……無条件勝利!」
瞬間。
「…………!」
身体が――熱くなった。
血流が早まっていくのを感じる。脳が冴えわたり、思考が研ぎ澄まされていく。自身からわずかに湯気が立ち上っていく……
――暑い。
だが、どうしてだろう。
いままでにないくらい、心地よい……
ルイスは無意識のうちに太刀を構えていた。
むかし必死に修行した、太刀の使い方。
いままでのルイスは、思うように身体を動かすことができなかった。
どう動くべきか、どのように刀を振るえばいいのか――頭ではわかっていても、身体がついていかなかったのだ。
でも、いまは……
「心眼一刀流……一の型、極・疾風!」
叫び声を発すや、ルイスは勢いよく地を蹴る。
これに対し、魔獣の反応は鈍重そのものだった。
動き出したルイスに気づき、慌てて武器を構える――それより前に、ルイスは攻撃に移っていた。
軽やかに太刀を振るい、のんきに構えを取っているゴブリンの首を刈る。
――一撃。
数分前まであれだけ手こずった魔獣を、たった一撃で討伐せしめた。
だがそこでルイスの猛攻は止まらない。魔獣たちは今に至ってやっと、ルイスが至近距離まで詰めてきたのを悟ったところだ。ここから奴らが反撃に転じるさまを、ルイスはなかば他人事のように見ていた。
――遅い。
のろまな魔獣の攻撃を避け、一体、また一体と、ルイスは太刀を振るっていく。
斬られた魔獣はたった一撃で沈んでいった。わざわざ急所を狙わずとも、一太刀浴びせるだけで充分だった。そしてまた、奴らはゴブリンのときと同様、斬られるその直前までなにが起きたのかわかっていなかったようだ。実にあっけらかんとした表情のまま、動かぬ者となっている。
それもそのはずだ。
心眼一刀流――
すなわち。
二千年前、伝説の勇者だけが使えたという、最強の流儀。
ルイスの若かりし頃、憧れに憧れた太刀の使い手だ。
これまで妄想上にしか存在しなかったはずの流儀を、いまのルイスは使いこなすことができた。そこらへんの魔獣など、もはや相手にならないだろう。
数秒後。
動きを止めたルイスの周囲に、もはや生きている魔獣は一匹たりとて残っていなかった。