それぞれの想いを胸に
強い……
知らず知らずのうちに、ルイスはごくりと唾を飲んでいた。
レスト・ネスレイア。
たしかに奴は《Sランク冒険者》という器に収まるような人物ではない。
強すぎるのだ。
いままで出会ってきた、どんな敵よりも。
もしかすれば、前代魔王ロアヌ・ヴァニタスすらをも凌駕するかもしれない。
すくなくとも、ルイスがイメージするSランク冒険者よりは格段に強い。黒装束のなかにはたぶんSランク冒険者も数人交じっているだろうが、彼らがまったく適わなかった古代魔獣を、レストはたった一撃で打ち倒したのだ。その実力は尋常ではない。
そして――彼をサポートする、Sランク冒険者のミューミ・セイラーンも侮れない。彼女は古代魔法こそ扱えないものの、魔導具をうまく使いこなしている。その影響か、彼女の魔法はアリシアにも匹敵するほど強力だ。
この二人、思ったより厄介だ……
「信じられん……あのブラッドネス・ドラゴンを、たった一撃で……」
ヒュース・ブラクネスがくぐもった声で言った。警戒心もあらわにレストを見やっている。
他の神聖共和国党の面々も、さすがに怖じ気づいてしまったようだ。そりゃあそうだ。自分たちの切り札が呆気なく倒されたのだから。
「ヒュース。また、あいつを……ロアヌ・ヴァニタスを召喚することはできねえのか」
ルイスの問いかけに、ヒュースはかぶりを振る。
「さすがに無理だな……。魔王クラスは格が違う。準備するのにかなり時間がかかる」
「そうか……」
「関係ありませんよ。私たちが……戦えばいいんです」
そう言ったのは、相棒のアリシア・カーフェイだった。
どれだけの難敵が現れたとしても、彼女の態度は変わらない。かつてロアヌ・ヴァニタスと対峙したときと同じように、凛乎たる瞳を燃やし、ルイスの隣に並ぶ。
「私たちならいけるはずです……だって、あの前代魔王だって倒せたじゃないですか」
「ああ……そうだな……」
ルイスもまったく同様の考えを抱いていた。
いかにレストが強くとも、ここで怖じ気づくわけにはいかない。大事な人々を守れずして、なんのための力か。なんとための《無条件勝利》か。
「あ、そうだよ……!」
神聖共和国党の党員が、ふいに呟きを発した。
「あの二人は、かつて前代魔王を倒したんだ……! 俺、見てたぞ……!」
「そうだ、ルイスたちがいるぞ!」
「まだ戦いは終わってない!」
味方の軍勢にも士気が戻ってきたようだ。帝国の冒険者、および神聖共和国党の党員に、再び明るさが漲っていく。
「はは……人生、なにがあるかわかったもんじゃないなぁ」
言いながら、ヒュースが控えめに笑った。
「あのときは恐ろしく見えたおまえたちの背中が……いまは頼もしく見えるよ。そうだな……おまえたちは、あの前代魔王をも倒したんだ。俺たちが長い年月をかけて召喚させた、あの化け物を……」
「おいおい、私は蚊帳の外かよ」
不満げに唇を尖らせ、共和国のSランク冒険者――フラム・アルベーヌがルイスの隣に並んだ。
「レストたちには及ばないかもしれないが、私だってSランク冒険者だ。意地を見せてやるよ」
「はっ……助かるよ」
ロアヌ・ヴァニタスとの戦いでは、MPの枯渇がすなわち勝敗を決していた。あっという間に体力を失うルイスを、アリシアが回復させる――そんな戦法でしか、前代魔王には通用しなかった。
けれど、いまは違う。
フラムを始めとする、大勢の仲間がいる。
絶対に、負けられない――
「はは、盛り上がってきたねぇ。いよいよ正念場ってやつかよ」
レスト・ネスレイアは瞳をキラキラさせ、太刀を構えた。その視線はまっすぐルイスに据えられている。相変わらず、《バトル》とやらにワクワクしているようだ。
「ちょっとレスト、無茶しないでよ? 楽しくなると後先考えなくなるクセ、直ってないんだから」
ミューミ・セイラーンが心配そうにレストを覗き込む。
「わかってるってさ。細けぇことはいいんだよ。俺は《バトル》が楽しめりゃそれでいい」
「レスト……」
そこで一瞬だけミューミは切なそうに顔を伏せたが、数秒後には毅然とした表情をルイスたちに向けた。
「絶対に勝って帰るよ。絶対だからね!!」
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