人外の域をも越えた男
戦況は一転した。
ヒュースを筆頭とする神聖共和国党。
そしてバハートを始めとする帝国の冒険者たち。
彼らの登場により、一気にこちらが有利になった。特に古代魔獣の力は甚大だ。いままで嫌というほど苦しめられてきたぶん、味方になると頼りになる。ブラッドネス・ドラゴンもゾンネーガ・アッフも、容赦なく敵を蹴散らしていく。
軽く探してみたが、アルトリアやフレミアは来ていないようだ。
もちろん彼らは貴重な戦力なので、プリミラ皇女が戦闘への参加を要請したようだが、「確かめたいことがある」と言って断ったという。詳しいことまではわからないが、カーフェイ夫妻も独自に動いているようだ。
「はは……すごいな、これは……」
ルイスの脇で、フラム・アルベーヌが呆れ笑いを浮かべる。
「あんた、こんなに仲間がいたんだな。知らなかったよ」
「……ああ。神聖共和国党まで来てくれるとは正直思いもしなかったが」
ヴァイゼ大統領が、大勢の戦士を従えて、帝国への侵攻を企んでいる。そしてその戦場にはS、Aランク冒険者級の実力者が多く存在する――
そんな危険極まりない戦場へと、みんな駆けつけてくれたのだ。下手したら自分が死ぬかもしれない。それでも、ここぞというときに助けにきてくれた。
それを思うと嬉しくなってくるが、いまは感慨に浸っている場合ではない。俺たちも戦闘に参加しなくては……
「ひゃっほうぉ!」
そのとき、愉快げに笑う男の声が聞こえた。自分の命がかかった戦場において、純粋に戦いを楽しむような輩は、この場にひとりしかいない。
「グオオオオオッ!」
「おらよっと!」
レスト・ネスレイアは、ブラッドネス・ドラゴンの振り払った尻尾を軽々と避ける。
古代竜の攻撃は相当に速かった。
それを笑いながら回避してのけるのだから、少々ゾッとせずにはいられない。
「だから言っただろうよ。俺を――そこいらのSランク冒険者と一緒にすんなってなぁ!」
あの陽気なレストが、一瞬だけ邪悪な笑みを浮かべた――気がした。
彼は太刀を構えると、見覚えのある剣技をブラッドネス・ドラゴンに叩き込んだ。
――心眼一刀流、一の型、極・疾風――
その昔、勇者エルガーだけが使えたという、伝説の流派。
文字通り神速で繰り出された剣筋は、ブラッドネス・ドラゴンのHPを余さず喰らい尽くした。
なんとたった一撃。
それだけで、太古に猛威を振るっていた古代竜は呆気なく崩れ落ちた。近隣にいた神聖共和国党の党員が、慌てて竜から離れていく。
「あ……あんた……!」
バハートが驚愕の声を発した。
「レ、レスト……! なんであんたがここに……! まさかスパイだったのか……?」
「よ、昨日ぶりだなバハート!」
にかっと歯を出すレストに、バハートは難しい顔になる。
「厄介だな……。あんたの強さは……身に沁みて知ってる……」
「は? なに言ってんだ? おまえたちに見せた俺の力なんて、ごく一部でしかねえよ」
「なに……?」
バハートが目を見開いた、その瞬間。
「グオオオオオオッ!!」
レストの背後から、ゾンネーガ・アッフが襲いかかった。獰猛な拳を掲げ、凶悪なまでのスピードで振り下ろす。
言うまでもなく、チート級の攻撃力を誇るその攻撃を。
レストは、ひょいと振り上げた片手で事も無げに受け止めた。
「不意打ちたぁ、見かけによらず賢いことするじゃねえか……お猿サン」
言うなり、レストは肘打ちをゾンネーガ・アッフに見舞った。
「マ、マジかよ……」
その先に起こった出来事は、さしものルイスも驚かずにいられない。
「グ……グオ……」
強靱な肉体を誇る巨大猿は、苦しそうに腹部を抑え。
ドシン。
大きな音を轟かせ、その場に膝をつき――そのまま動かなくなった。
「ミューミ! いまだ、完全回復を!」
「言われずとも、わかってますってば!」
ミューミ・セイラーンは気怠そうに返事をすると、片手を掲げた。
瞬間、黒装束を始めとする敵側の戦士たちを、白銀の輝きが包み込み。
重軽傷を負った者たちを、死者を除き、完全に回復させた。
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