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驚愕の連続

「…………」


 ルイスは改めて、レスト・ネスレイアの風貌を観察する。

 黒装束に黒マント、なかなか派手な格好をしているが、それ以外は見慣れた《Sランク冒険者》だ。特に表情は明るく生き生きとしており、いまから帝国を滅ぼさんとするような奴には見えない。


 ……いや、奴がそういう性格だからこそ、正体に気づけなかったわけか。


「おい」

 だからルイスは、どうしても聞かずにはいられなかった。

「なんでおまえが共和国の味方をするんだ。ヴァイゼに金でも積まれたか」


「んー?」

 レストは不思議そうに首を傾げる。

「なに言ってンだ。俺の目的は最初からコレだぜ。いや……もっと言うなら二千年前からってことかな」


「なに……?」


 二千年前。

 共和国が魔物界と結託し、帝国を取り込もうとしたところを――勇者エルガーが食い止めた。


「…………」


 ルイスは思わず唸った。

 まさか再び二千年前の話が持ち上がるとは。


「どういうことだ。それじゃ意味わかんねぇぞ」


「あー、まあ、わかんねぇよなぁ」

 レストは軽く後頭部を掻くと、申し訳なさそうに片手を振った。

「悪ィな。話してやってもいいけど、あんま長話すっとヴァイゼのクソジジイに嫌味言われんだ。いまは、そんな細けえことより――」


 にやりと笑いながら、腰の鞘に手を添える。


「《バトル》しようぜ! 俺とあんたが戦ったら、かなり面白え展開になるだろさ!」


「…………」


 ニコニコ笑いながら武器を構えるが、その風格、存在感は圧倒的だった。同ランクのフラムですら、息を呑んで後ずさるほどに。


 ルイスも思わず戦闘の構えを取る。


 ――レストの目的は、最初から帝国の滅亡にあった。

 ということは、《Sランク冒険者》という肩書きは単なるカモフラージュでしかなかったのだろう。


 そして、誰にも気づかれないように井戸の呪文を探り当て、戦士の意識を操り、ここまで陰謀を進めてきた……


 一見はあどけない彼だが、その手腕は驚嘆に値する。剣や魔法の腕も去ることながら、ロアヌ・ヴァニタスに負けずとも劣らない《化け物》といえるだろう。


 無邪気に笑うその裏側で、いったいどれほどの闇を背負っているのだろうか。


「ちょっと、レスト! 待ちなさいよ!」


 ふいに女の声が響きわたり、ルイスは眉をひそめた。


 この声。

 どこかで聞いたことあるような……


 瞬間。

 レストの隣に小さな魔法陣が浮かび上がり、新たな人物が姿を現した。なんと、ここまで《空間転移》を使用してきたらしい。


「……な!?」


 そしてその人物を確認したとき、ルイスはまたしても驚愕に見舞われた。


 ミューミ・セイラーン。

 彼女もまた、帝国におけるSランク冒険者だ。


 茶色に光る髪は腰のあたりまで伸びており、アリシアにも負けず劣らずの抜群のスタイル。

 頭には特徴的なトンガリ帽子を被っており、魔術師然とした風格を漂わせている。

 やや吊り上がった瞳には眼鏡がかけられていて、これもまた魔術師としての雰囲気を放っていた。


「嘘……でしょ……」


 背後のアリシアが驚きの声を発する。


「あー、ったくよぉ。うるせえから来んなよ」


 レストが面倒くさそうにため息をついた。


「馬鹿言わない! あなた、これから《無条件勝利》使いと戦うんでしょ! 放っておけるわけない!」


「何度も言わせるな。俺は負けねえ……絶対にな」


 二人のやり取りを聞き流しながら、ルイスは深い思索にとらわれていた。


 ミューミ・セイラーン。

 かつてレストも言っていたが、帝国で唯一、転移の魔法が使えるSランク冒険者だ。ルイスも冒険者時代、何度か見かけたことがある。


 ――転移魔法。

 昨日、多くの黒装束を転移させたのは、彼女の仕業ということか……?


 だが、ミューミの転移魔法は《古代魔法》には劣るはず。

 せいぜい自分自身しか転移できないと聞いた気がするが……


 そのとき、背後のアリシアがルイスに歩み寄ってきた。


「ルイスさん、あれ……」

 手差しされた方向に目を向けると、ミューミの腰部分に、緑色の物体がかかっているのが見えた。

「あれ、たぶん魔導具まどうぐじゃないですか……?」


「はっ……そういうことかよ……」


 帝国出身たるルイスにはよくわからないが、魔導具にはおそらく、使用者の魔術を強化する効果でもあるのだろう。本来は自身にしか適用できない転移魔法を、魔導具によって強化したと思われる。


 つまり――彼女もまた、敵側ということか……


 衝撃的な出来事の連続に、ルイスは思わず顔をしかめるのだった。




 

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