おっさん、戦線へ赴く。
「こ、これって……」
場が静まり返った後、アリシアは震える声でそう言った。視線も定まっていない。相当の衝撃を受けているに違いなかった。
だがそれはルイスとて同じこと。いまだ現実を飲み込めず、ぼんやりと呟く。
「宣戦布告……ってことか……」
レストが、帝国に存在したはずの《上位の戦士》をも取り込んでいるとするならば――いったい、誰があの国を守れるというのか。
神聖共和国党による一度目の襲撃すら押されていた、あの覚束ない戦力で……
共和国の陰謀は、あの日から――いや、それ以前から、着々と進んでいたわけだ。やはりルイスの抱いた違和感に間違いはなかった。
……止めるしかない。
たとえこちらが数的に不利であっても、この危機を止められずして、なにが《無条件勝利》か。
「行くんだな……?」
フラムが気づかうような視線を向けてくる。
「ああ。そのために共和国に来たんだからな」
ルイスはしっかり頷くと、アリシアも同様の反応を示した。
「たぶん、あの日……ロアヌ・ヴァニタスと戦った日よりも厳しい戦いになるでしょう。でも、ここで怖じ気づくわけにはいきません」
そう。
これはルイスの推測だが――あの黒装束の連中こそが、レストに取り込まれた帝国の戦士たちだろう。奴らはみなAランク相当の実力を持っていたし、意識も朦朧としていた。あのオルスたちとそっくりというわけだ。
共和国における兵力に加えて、その黒装束の連中、そしてレスト・ネスレイア……
対する帝国には、ほとんど戦力が残っていない。
かのロアヌ・ヴァニタス戦よりさらに厳しい戦いになることは想像に難くないだろう。
それでも。
「おまえら若え奴らの道を切り開く。それがおっさんの使命ってもんだ」
「私だって頑張りますよ!!」
迷いなく答えるルイスとアリシアに、フラムはふふっと苦笑いを浮かべた。
「ほんと、大した奴らだよあんたらは。……わかった、私も協力させてもらおう」
「いいのか? だがおまえは……」
「水臭いこと言うなって。あんた、私も《仲間》みたいなこと言ってたじゃないか」
「……そうか。正直、かなり助かるよ」
できればすこしでも戦力を確保しておきたいところだ。Sランク冒険者たるフラムはたしかに欲しい。
ギロンの料理のおかげで、精力はすっかり回復できた。《無条件勝利》の使用に支障はない。後は覚悟を決めるだけだ。
「アリシア。《転移》は頼めるか?」
「はい。場所は……あの門のところですかね?」
――門。
帝国と共和国とを結ぶ、あの門のことだろう。
ちょっとだけ《無条件勝利》を使ってみると、その門の手前あたりでおびただしい気配を感じる。侵入の一歩手前といったところか。
ルイスは《無条件勝利》を解除し、静かに言った。
「ああ。その場所に頼む」
「わかりました……!」
アリシアが懐から杖を取り出し、高く掲げると。
ルイス、アリシア、フラムは、ほのかな光に包まれ、門の手前へと転移した。
予想通り、というべきか。
門の手前では、数えるもおぞましい人間でひしめき合っていた。
共和国の兵士、黒装束を被った戦士たち、そして意識を乗っ取られたらしい冒険者たち……
それら大勢の戦士たちが、門の手前で待機していた。
ルイス一行は、門と連中との中間地点に転移した。
「…………」
そして三人、なにを言うでもなく、各の武器を構える。魔術師たるアリシアのみ、ルイスたちより数歩下がった。
とんでもない熱気だ。
みな意識を操られているようで、視線は覚束ないが、全員が歴戦の戦士。そんな連中が一カ所に集まるだけで、すさまじい威圧を感じる。
「ほう……? 来たか」
ふいに聞き覚えのある声が響いた。
視線をそちらに向けると、黒装束をまとったあのリーダー格がこちらに歩み寄ってくるところだった。
「この絶望的な戦力を知っててなお来るとはな……。やはり見所のある奴らということか」
「はっ。猿芝居はそこまでにしやがれ」
ルイスはリーダー格をきっと睨みつけた。
「てめぇが黒幕だったんだな……Sランク冒険者――レスト・ネスレイア!」
「ほう……」
リーダー格は含み笑いを発すると、ゆっくりと黒仮面を取り外す。
そうして晒された素顔は、やはり見覚えのあるものだった。
多方面に逆立った赤毛に、無邪気そうに輝いた顔。くりくりっと丸い瞳はまるで少年のよう。
彼こそが、帝国におけるSランク冒険者――レスト・ネスレイアだ。
仮面に声を加工する細工でも施されていたのか、続けてレストが発した声は、さきほどと比べてトーンがだいぶ高かった。
「久しぶり……でもねぇか。ルイスのおっちゃん、あとアリシア!」
「ギ、ギルドマスター、本当に……」
隣で、フラムが青白い表情で呟いていた。
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