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おっさん、怒る。

 事件現場に到着したのは、それから数分後のことだった。


「ありがとよ!」


 ルイスは御者に短い礼を述べてから外に出る。アリシアとフラムも彼に続いた。ここからは一瞬の油断も許されない。


 モンネ街。


 漁業が盛んで、普段は平和と聞いている町並みは――悲惨なものだった。


 とある旅館を中心に、大勢の人垣ができあがっている。おそらくあそこが立てこもり現場だと思われる。安全な場所に避難しているのか、女性や子どもの姿は見当たらない。旅館を取り囲んでいるのは、十割方、若い男性のみだ。


「死ねーーーェ! 死ね死ねェ! あはははははっ!」


 人垣の中心で、獣の咆哮ほうこうのような怒声が響き渡った。理性を丸ごと忘れてしまったような、醜悪な鳴き声だ。


「うあああああっ!」


 断末魔の悲鳴も同時に聞こえてくる。ルイスの視界に鮮血が映り、ひたと嫌な予感を覚えた。


「ル、ルイスさん、あれを……!」


 アリシアが、顔面蒼白でとある一点を指さした。

 その先には――動かなくなった男性の身体。

 全身の各所がざっくり斬られている。相当の重傷だ。放っておけば死に直結する。


 彼だけではない。

 他にも、男たちの瀕死体ひんしたいが見て取れる。なかには死の一歩手前にいる者もいるようで、激しく歪んだ表情で悶えている。


「アリシア」


「はい!」


 名前を呼んだだけでこちらの意図を察したのだろう。アリシアは頼もしい顔で返事をすると、負傷者のもとへと走っていく。彼女の完全回復エターナルヒールであれば、大概の傷は治せるはずだ。なにせ古代魔法である。


 MPの枯渇が不安なところだが、この際構っていられまい。


「え……。な、治った……!」


「はい……! 無茶だけはしないでくださいね……!」


「う、嘘だろ……! お、俺、かなりの重傷だったはずだけど……?」


 驚きの声を発する怪我人を脇目に、ルイスとフラムは旅館に歩み寄っていく。どうやら中心部分にいるのが《見張りの冒険者》らしい。果敢にも取り押さえようとした一般人を、返り討ちにしているに違いなかった。


「さぁて、次に死にたいのはどいつかなァ? わかってるだろ? 俺様はAランク冒険者。てめェらが束になろうが、永久に勝てねえよ」


「…………!」


 そうして人垣の内側に辿り着いたルイスは、思わず喘いだ。

 女性への暴行目的という、あまりにも馬鹿馬鹿しい立てこもり事件を起こした犯人のひとり――


 Aランクの冒険者、オルスに向かって、ルイスは大きな怒声を発した。


「オルス! てめェ、なにしてやがるんだ!」


「あぁん? 誰だおまえは……?」


「な、なんだと……!?」


 オルスの表情からはやはり理性というものが感じられなかった。目線は虚ろで定まらず、顔もかなり白い。それでいて眼球は血走っているのだから、相当に不気味な風貌をしていた。


 しかもルイスに向かって《誰だおまえ》ときた。変な冗談を言っているようには見えない。


「はぁ……はぁ……」


 そんなオルスと対峙しているのは、屈強な身体つきをしている男だ。格闘家という言葉が似合いの大男だが、相手はAランクの冒険者。一般人なぞが適うはずもなく、肩口を抑え、苦しい呼吸を繰り返している。


 さっきの悲鳴はこの大男のものだったようだ。右腕がざっくり抉られ、大量の血液が地面に落下している。


「おい、やべぇよ……ギロンでさえ適わねえなんて……」


「ぐ、軍はどうしたんだよ!? なんでこういうときに限って誰も来ないんだ!」


 周囲の住民が口々に喚く。

 どうやら、オルスに自分たちの力だけで対抗しているようだが――曲がりなりにも奴はアルトリアと同級のランクだ。素人が束になったところで適うはずもない。


「あああああっ!」

「や、やめてよぉ!」

「ママ! ママ!!」


 旅館の内部からは、女性の悲鳴とも喘ぎともつかない叫び声、そして男たちの狂乱の声が聞こえる。


 その犯行を敢行しているのが、本来住民を守るはずの冒険者――これを地獄絵図と言わずしてなんという。


 しかし、当のオルスにはあの叫び声が神の美声にでも聞こえるのか、ぺろりと舌なめずりをしながら言った。


「ひゃひゃひゃ。いいねぇ。あの女、もう一度味わいてぇな」


「き、貴様……!」


 ギロンという大男が鋭い目つきでオルスを睨みつける。


「おっと? あの女はおまえの娘だっけかァ? どうよ、自分の家族がなぶられる気持ちはよぉ?」


「…………!」


 お父さん! という声が旅館から聞こえる。


「はっはっは。どうだ。あの女、おまえの名前を呼んでるぜ。でも助けにいけない。困ったなァ? ひゃひゃひゃ!」


「うおおおおおおっ!」


 大男はついに耐えられなくなったか、オルスに突進をかます。

 だがしょせんは手負いの無思慮な攻撃。傍目に見ても稚拙な攻撃だった。


 それをオルスが防げないわけがない。Aランク冒険者はギロンの拳を事も無げに受け止めると、残った片手で剣を高く振りかぶった。


「死ねェ……! 死ねーーーッ!」


 だが、その剣はギロンには届かず。

 ガキン! という金属が周囲に響きわたった。


「……おまえは冒険者の恥だ」


 オルスの剣を丸ごと受けきり、ルイスは小さい声で言う。もちろん《無条件勝利》は使用済みである。


「あ……あんたは……!」

 ルイスの脇で、ギロンが大きく目を見開いた。

「テ、テイコー……? な、なんでこんなところに……」


「下がってろ。家族を助けたいんだろうが」


「し、しかし、相手は冒険者で、しかもAランクだぞ……」


「気にするな」


 ルイスは気合いを込め、太刀を思い切り振りかぶる。

 それだけで相手には強い衝撃が伝わったのだろう。オルスが情けない悲鳴とともに後方に吹き飛ぶ。


「……こんな奴ら、屁でもねえよ」



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