おっさん、ごちそうに夢中になる。
――共和国が魔物界と手を組んでいる。
にわかには信じがたい話だった。そもそも、魔獣なんかと話が通じるものだろうか……?
「あっ、そうだ」
アリシアはふと思い出したように古代魔法を使用した。白銀のオーラが彼女を包み込み、そして消える。
ぽん、と。
なにもない空間からふわりと卵が出現し、アリシアの両手にすとんと収まる。
興味津々といった態度で、フラムが身を乗り出した。
「それが……例の……?」
「はい。ロアちゃん――前代魔王ロアヌ・ヴァニタスの卵です。この子ならなにか知ってるかもしれませんね」
「…………」
しかしながら卵はまったく微動だにしない。ずっと静かなままだ。
しばらく沈黙が流れたあと、ルイスはぽつりと言った。
「……残念だが、まだ孵化には早ェようだな。また今度だ」
「はい……そうですね……」
ちょっとだけ悲しそうにしながら卵を抱き抱えるアリシア。
まあ、仕方あるまい。共和国に入ってからはずっと卵を外に出す余裕がなかった。時間がかかるのも道理だろう。
「にしてもよ、ナールさんっていったい何者なんだ……? いろいろと情報に精通しすぎじゃねえのか」
「さ、さあ……。たまに鋭すぎる一言をくれるから、私もずっと不思議に思っていたが……」
「そ、そうか……」
娘がわからないのならば仕方ない。たぶん、ナール本人に聞いても答えてくれないような気がする。
それからほどなくして、ナールが皿いっぱいの料理を運んできた。なにやら香しい匂いが漂ってきて、それだけで腹が鳴る。一同は、いただきますを言ったあとに一声に夕飯にかじりついた。
アリシアの母――フレミアの料理にも負けずとも劣らない美味。その味付けに、ルイスもアリシアもしばらく夢中だった。
ユーラス共和国。
ここに入国してまだ一日だったが、本当に色々なことがあった。
ヴァイゼ大統領が、魔物界と結託して《帝国の支配》を企んでいるのであれば、もはや一刻の猶予もなかろう。
冒険者として各地を回りながら、その陰謀を阻止するしかない。幸いにして、今日の襲撃事件によって多少ルイスの株は上がった。すこしくらい難易度の高い依頼は受けられるようになるだろう。
明日からはさらに気を引き締めなければなるまい。
だが、みんなで夕餉を取っているいまだけは、ちょっとくらいくつろいでもいいだろう――
そう思って、次の皿に手を伸ばすルイスだった。